決意-2
「華代、ごめんね。
思いきり突き飛ばしてしまったね。」
『いいんです。
もしあの時私が跳ねられていたら…きっと此処にはいませんでした。』
華代の話によると、あの事故で跳ねられて亡くなった人もいたそうだ。
生きている事は、それだけで奇跡なんだ。
そう思った瞬間だった。
亡くなった人たちの冥福を祈る為に目を閉じる。
そして華代の手を握り返した。
此処に温もりがある。
「僕は生きているんだね。」
華代は俯き、何度も頷いた。
何だか様子が変だ。
「……華代?」
僕の手を握る華代の手が震えている。
綺麗な目から沢山の涙が溢れていた。
「華代。」
握られていない壁側の腕をゆっくり動かすと、華代の頬に触れた。
『如何して…。』
涙はどんどん溢れ、僕の手を濡らした。
『如何して私なんかを…庇ったんですか?
庇わなかったら、先輩はこんな事には…。』
「そんな事、出来る訳ないよ。」
僕は穏やかに微笑んだ。
そっと涙を拭ってあげた。
「君は君が思っている以上に周りの人に大切にされているんだよ。
桃も、君の両親も、愛も。
皆が君の事を本当に大切に思っているんだ。」
拭っても拭っても零れる涙。
泣き顔さえ、可愛らしいと思った。
「僕も君が大切で、凄く好きだよ。」
二度目の告白だった。
君はずっと泣いている。
個室で良かった。
「泣かないで。」
華代はそっと顔を上げて、頬を撫でる僕の手に自分の手を重ねた
盲目の君の目に、僕が映っている。
抱き寄せたいけど、手が届かなくて悔しい。
すると、ノックの音がした。
病室の横開きのドアが開いた。
僕らは反射的に音の方を見て、華代は僕から離れて距離を取った。
扉を開けたのは、華代の兄である桃だ。
その背後には僕の妹である愛がいて、手一杯の花を持っていた。
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