和解-2
僕は緊張気味な愛に微笑みかけた。
よく考えると、こうやって愛に微笑みかけるのは本当に久し振りだった。
「愛、如何したんだい?」
「その…謝ろうと思って。」
謝る――?
愛は伏せていた目を僕に向けた。
「お兄ちゃん、ごめんなさい…。
避けたり、酷い事言ったりして…本当にごめんなさい…。」
愛は膝の上で服をぎゅっと掴み、僕に頭を下げた。
「ごめんなさい…。
一人で馬鹿みたいに拗ねてた…。
お兄ちゃんがどんな気持ちでいるのか、全然分かってなかった。」
愛がこんなにも反省していたなんて思わなかった。
中々頭を上げない愛に優しく微笑み、妹の頭に優しく手を置いた。
「いいよ、もういいんだ。」
「お兄ちゃん…。」
顔を上げた愛は涙目だった。
僕は力なく話した。
「僕が馬鹿だったんだ。
華代に首を突っ込み過ぎたから。」
愛はごしごしと目を擦り、にこっと笑った。
良かった、笑ってくれた。
愛には笑顔が似合う。
「あのね、華代が嬉しかったって。」
「!」
「自分に此処まで言ってくれる人なんて、今までいなかったって。」
僕は目を細めた。
強張っていた心が解れてゆくのを感じた。
「ありがとうって言ってたよ?」
「華代が?」
「うん。」
愛は僕の信じられないような表情を見ていたけど、ふと小首を傾げた。
「何時の間に華代を呼び捨てになったの?」
「うーん、分からないや。」
「何それ。」
頭が一杯になった時、自然と呼び捨てになっていたのを思い出す。
あれは告白した時だった。
愛は不思議そうに僕を眺めていたけど、すぐに口を開いた。
「あたしが言いたかったのはそれだけなの。」
「そうかい、ありがとう。」
「うん、じゃあ今からデートだから。」
表情が転々とする愛は先程までの暗い表情が何処かへ行ってしまい、明るい表情になっていた。
僕と仲直りしたし、手塚と出掛けられるのも嬉しいんだろうね。
僕はクスクスと笑った。
「気を付けてね、いってらっしゃい。」
「いってきます。」
愛は僕に手をひらひらしてから部屋を出て行った。
僕は脱力してベッドに腰掛けた。
一つ、重荷が下りた。
一番身近な家族である愛との問題が解決した事は、僕の気持ちを軽くしてくれた。
それでも頭から離れないのは華代だ。
今、何をしているんだろう?
連絡はするべきではないと分かっていても、連絡したいと思う時がある。
華代は視覚障害者用の携帯を持っていると桃から聞いたけど、電話しかしないらしい。
メッセージなんて当然送れない。
電話番号だけでも教えて貰っておけばよかった。
好きな相手の連絡先も知らないなんて。
大きな溜息を一つ零したけど、これ以上気を落とすのは止めようと思った。
欲しいと思っていた新しいデジカメでも見に行こうと思い、出掛ける事にした。
外を見ると、天気は雨だ。
愛は折角のデートなのに、雨なのは残念だ。
そんな事を考えながら、長財布をジーパンのポケットに入れた。
そして、僕は部屋を後にした。
2008.9.26
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