prologue-3
何時からだろう。
君の写真を見ても、泣かなくなったのは。
君がいなくなった当初は、君の写真を見る度に涙が滲んだ。
でも、今はこうして穏やかに見ていられる。
駄目だ、華代の事ばかりが頭を巡る。
何か違う事に話を向けないと、こんな歳の僕が独りでメソメソしていたら怪しい。
あ、そういえば雅、最近帰って来ないな。
雅は華代と僕の間に授かった一人娘だ。
有名な進学校に入学し、寮で暮らしているけど、心配で仕方がない。
連絡をたまに寄越してくるから大丈夫なんだろうけど、これでも父親だ。
心配なのは仕方ないんだ。
それになるべく帰ってきて欲しい。
雅は華代にとても似ているから。
「あ、また華代の事…。」
思い出してしまっている。
僕は何を考えていたって、最終的には華代に辿りついてしまう。
「華代……。」
独りでアルバムを抱き締めると、自分が情けなくなった。
寂しい、逢いたい。
「……お父さん?」
「!?」
背後から突然声がして、勢いよく振り返った。
其処には噂をすれば、雅がいた。
唖然とした表情で僕を見つめている。
僕はちょっとだけ赤面した。
娘に変な処を見られてしまったと思うと恥ずかしい。
でも、僕が赤面したのはほんの一瞬だけだった。
僕はすぐに目を見開いた。
「雅、その服…。」
「あ、これ?」
雅は自分の服に目をやった。
そして、嬉しそうにクルッと一回転した。
「可愛いでしょ。」
僕はまだ目を見開いたまま、雅をじっと見た。
白のレースが可愛らしいシンプルなワンピース。
それはまさに、昔華代が着ていた服だった。
何処から出してきたんだろう。
「似合ってないかな、あたし…。」
「えっ?
あ、ごめん、ぼーっとしていたよ。」
僕はソファーから立ち上がり、後ろにいる雅を改めて見た。
変だとでも言われるんじゃないかと思っているのか、雅は少し目が潤んでいた。
僕はそんな雅ににっこりと笑った。
「似合うよ、雅。」
華代にそっくりだ。
雅は表情をぱあっと明るくした。
「ほんと?
えへへ、嬉しいな。」
雅は本当に嬉しそうに、もう一つのソファーに腰掛けた。
僕の家にはデスクを挟むように二つのソファーがあるんだ。
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