星空-2

「華代は手術の事でほぼ毎日親と喧嘩してるんです。

そのせいで華代は父ちゃんも母ちゃんも大嫌いで、家族の中で唯一の味方はお兄ちゃんだけだって言うんですよ。」

「……。」

桃は何時も通り明るく振る舞っているつもりなのかもしれないけど、今は無理して繕っているような気がした。

「俺は華代に嫌われるのが怖くて、手術してくれって言えなくて。

だからそう言えた先輩の事、凄え尊敬しました。」

「でも僕は君の妹を…。」

―――もう私に関わらないで下さい。

そんな事まで言われてしまった。
完全に拒絶されてしまったんだ。

「桃に恨まれていると思っていたよ。」

「ええっ?!

俺が不二先輩を恨むなんてあり得ないっスよ!」

桃はびっくりして起き上がり、全力で否定する為に首をぶんぶんと左右に振った。
僕はほっとして微笑んだ。
気持ちが少し楽になった途端、外が何時の間にか薄暗くなっている事に気付いた。

「あ、一番星。」

「何か良い事があるかもね。」

僕はその一番星を見ながら、穏やかに言った。

「先輩。」

僕は星に視線を向けたまま耳を傾けた。

「華代は星が好きなんですよ。」

桃は空を仰ぐように星を見つめていた。

「華代が失明したのは、初めて展望台に行く日の前日だったんですよ。

華代の奴、ショック受けて、1週間くらい絶食してました。」

星――盲目なら決して見られない。
僕らは今、華代ちゃんが見られないものを見つめている。

「華代ちゃんは如何して失明したんだい?」

僕はずっと気掛かりだった事を思わず聞いてしまった。
桃は快く答えてくれた。

「原因不明なんですよ。」

「分からないのかい?」

「はい、失明する直前に高熱で倒れて、それで急に…。」

突然に、か。
凄く辛かっただろうな。
僕はグラウンドを必死に走っている英二にふと視線を移した。

「華代はそれから急に暗くなりました。

愛ちゃんのお陰もあって、今はかなり戻った方なんです。

けど、もっと明るい子でした。」

桃はもう一度仰向けに寝転んだ。
僕は桃の顔を見た。
遠い目をしている桃は、ゆっくりと息を吐いた。

「あいつの人生はあいつのものだから、俺は好きにさせてやりたい。

だから手術の事は俺からは何も言わずに、華代に任せてました。

でも――」

「?」

「最近になって、手術から逃げないで欲しいって思うようになったんですよ。」

桃は僕を見てニッと笑った。
星よりも明るい笑顔だと思った。

「華代に、星を見せてやりたいから。」





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