友情-2

殴られた勢いで転倒しそうになって、しゃがみ込んだ。
痛む頬に手を当てながら、僕は顔を上げた。
僕をいきなり殴った、本人は僕を見下ろしている。
よく見てみると、その人は――

「…英二…?」

突然の来客は英二だった。
英二はしゃがんでいる僕の襟首を引っ掴んだ。

「英二、何を――」

「馬鹿野郎!!」

英二が本気で怒っている。
普段と目が全く違う。
英二は殴った拳をまだ握り締めていた。

「桃と愛ちゃんは学校に来てるんだぞ!

なのにお前は何だよ!

連絡しても返事がないし、電話にも出ない!」

スマートフォンは電源が切れたままだ。
スクリーンの中に映る名前が華代じゃないかと期待してしまうから。
それに華代が息を引き取るまでの時間、華代に逢う事に全力を注ぎたかった。
襟首を解放された僕は、ふらつきながらも立ち上がった。

「僕は華代がいないと駄目なんだ。」

「…!」

「この僕の気持ちは、君には分からないよ。」

英二はまた僕の襟首を掴んだ。
でも、僕は無表情だった。

「だからっていつまでもめそめそしてんのかよ!

華代ちゃんはそんな事望んでない!」

僕は目を見開いた。
華代が――?
英二の顔を見て驚いた。
あの陽気で明るい英二が、泣いている。

「何で華代ちゃんの分も前向きに生きようと思わないんだよ…。

目を覚ましてよ不二…こんなの不二じゃないよ…。」

英二は俯きながら、泣いていた。
僕は何時の間にか、大事な親友をこんなにも心配させていたんだ。
罪悪感が込み上げた。
きっと華代が僕を見てくれているのに、僕は――

「英二。」

僕の襟首を掴む英二の腕をそっと掴んだ。
英二は涙目で僕の目を見た。

「ありがとう、心配させたね。」

「やっと目を覚ましてくれた…?」

「ごめん、僕が馬鹿だった。」

英二は襟首を掴んでいた手を離して、自分の目をごじごしと擦った。
華代はもういない。
でも、僕は今此処で息をしている。
僕は生きてるんだ。

「僕、頑張るよ。」

「うん!」

僕らはお互いの手をパチンと合わせ、ハイタッチをした。
濁りのない笑顔を見せる英二に、僕も微笑んだ。
沈み込んでいた心を、親友に引き戻された気がした。



2009.2.11




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