epilogue

僕は全てを雅に話し終えた。
無事、泣かずに話し切った。

「お母さんがそんなに苦労してあたしの事を産んだなんて、知らなかった…。」

雅は涙を零していた。
話し始めた時間には太陽が差し込んでいたけど、外はもう薄暗くなっていた。
雅は目をごしごしと擦った。

「お父さん。」

「ん?」

何かを言い淀む雅に、僕は優しく微笑んだ。
雅は控えめに訊ねた。

「…そのカセット…まだある?」

「あるよ、聴くかい?」

「聴きたい。」

僕は立ち上がり、自分の部屋に向かった。
鍵が掛けられている引き出しを開け、中からファイルを取り出した。
その中に丁寧に保存してある物。
それがあの封筒だった。
もう17年も前の物だから、封筒は色褪せていた。
中からカセットを取り出すと、一緒に手紙も顔を覗かせた。
手紙を手に取り、暫く見つめた。
それを封筒の中に大切に入れると、雅の待つリビングへ戻った。
其処では雅が音楽プレイヤーの準備をしていた。
このプレイヤーは、僕が華代から貰ったカセットを再生する為に取っておいたものだった。

「これだよ。」

雅がはっと僕の方を見た。
僕は机に置かれたプレイヤーにカセットを入れた。
そして、再生ボタンをそっと押した。

初めて雅に聴かせる、華代の奏でる音色。
雅は目を閉じて聴いていた。
その目から涙が流れた。
僕は華代にしたように雅の頭を優しく撫でた。
華代――たった今、僕は雅に君の音色を聴かせているよ。
君はどんな風に思うかな。
嬉しいのかな。
それとも、遅いと思うかな。
曲が終わると、雅は僕に涙ながらに微笑んだ。

「…凄く綺麗だった。」

「当然だよ。」

華代の奏でる音色なんだから。
僕が世界で一番好きな音色なんだから。

「お父さん、ありがとう。

話してくれて。」

「いいんだ。

ずっと話せなくてごめんね。」

「もういいの。」

雅は僕の表情を見て何かを察したのか、自室に戻ろうと立ち上がった。
リビングのドアの前で僕に振り返った。
そして、呟くように言った。

「お母さんに感謝しなくちゃね。

産んでくれてありがとうって。」

僕は目を見開いた。
微笑んでいる雅は華代に瓜二つだった。
そんな事を考えている僕に背を向け、雅は部屋に戻った。
一人にしてくれたんだ。





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