封筒-3

葬儀が終わって帰宅すると、僕はやっとあの封筒を開封した。
相変わらず、ずっと開けられなかったんだ。
机の中に大切に保管してあった封筒を、僕は久し振りに触った気がした。
静まり返っている真夜中、僕は緊張で震える手でそれを開封した。
封筒の中から、丁寧に折ってある手紙とカセットテープが出てきた。
僕はまず手紙を広げようと、手に取った。
広げる前に、一度目を閉じた。
自分の鼓動がはっきりと聞こえるほど僕は緊張していた。

これは華代からの最初で最後の手紙。
僕へのメッセージ。

落ち着こうと、深呼吸をした。
ゆっくりと目を開け、思い切って手紙を広げた。
其処には盲目の華代が一生懸命手書きした文が綴られていた。



不二先輩へ。

先輩がこの手紙を読んでいるということは、私はもう先輩の傍にいないんですね。
手術が失敗すれば、手に痺れが残るといった後遺症の可能性がありました。
何が起こってもおかしくない手術だと分かっていました。
それでも私は手術に踏み切りました。
先輩はどうですか?
それを知っていたら、私を引きとめましたか?

私は先輩に逢えて本当に幸せでした。
手術を受ける勇気をくれた先輩に、本当に感謝しています。
先輩のことだから、私に手術を勧めた自分を責めているんじゃないですか?
お願いです、自分を責めないでください。
責める必要なんてありません。
だって私はもう、自ら手術をすることを望んでいたのですから。

バイオリンのコンクールに出場できなくても、星を見られなくても、そんなことはどうだっていいんです。
もう先輩に逢えないかもしれないことが何よりも怖くて、悲しいのです。
先輩の傍にいられない私をどうか許して下さい。
次に生まれ変わるなら、先輩とずっと一緒にいられる存在でありますように。
もし寂しくなったら、空を見上げて私の名前を呼んでくださいね。

世界で一番、あなたが好きです。
ずっと見守っています。

桃城華代





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