別れ-2

手術室から赤ちゃんの細い泣き声が聞こえた瞬間、僕らは顔を上げて思わず微笑んだ。
嬉しさのあまり、愛と華代の母親は抱き合った。
僕も嬉しかったけど、華代が心配だった。

「華代。」

僕は無意識に華代の名を声に出していた。
ついに、手術中のランプが消えた。
僕がそれに逸早く反応し、廊下の椅子から立ち上がった。
僕に続いて、桃や愛も立ち上がった。
医師が手術室から出てきた。
僕らは医師の台詞を息を呑んで待った。
前回は脳死の報告だった。
次こそは、無事だという報告が聞きたい。
時が止まったように感じた。
鼓動が高鳴り、冷や汗が滲んだ。
医師はそっと口を開いた。

「女の子です。

超未熟児なので集中治療室に移動します。

取り出しましたが、一時も油断は出来ません。

お子様との面会は少々お待ち下さい。」

「華代は!?」

桃が震える声で言った。
華代の名前を聞くと、医師の表情が一変して暗くなった。

「中へどうぞ。」

医師がそう言うので、僕らは手術後の面会室へ入った。
僕が一番に走っていった。
華代は手術のベッドから普通のベッドに移されていた。
そして、人工呼吸器を外されていた。

「な、何でだよ…!」

桃が医師に向かってやつ当たるような声で言った。
愛が口元に手を当てた。
医師は俯くと、目を閉じて言った。

「残念ですが…手術中に息を引き取りました。」

華代の母親が力なく崩れ落ちた。
その背中を擦る華代の父親は涙を飲んでいた。
愛と桃は涙を堪えられずに泣き出した。
僕はゆっくりと華代に近付いて、もう息をしていない華代の頭を撫でた。

「よく頑張ったね。

ありがとう。」

僕はもう二度と目覚めることのない君に、そっとキスをした。
君の唇はまだ少しだけ温かかった。


桃城華代
12月15日 13時35分、永眠
享年16歳


華代。
無理をさせてごめんね。

お疲れ様、ありがとう――



2009.2.11




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