誕生日-4

帝王切開で子供を取り出せるのは、法律で妊娠22週以降だと定められている。
病院の先生の話では、華代は妊娠5ヶ月弱で、未だ20週だ。
華代は2週間、この病室で暮らすんだ。
人工呼吸器を装着されたままで。

病院の帰り道。
最寄り駅からバス停へと歩いている時、僕は愛に言った。

「愛は全部知っていたんだね。」

「うん、ごめんね。」

愛が桃城夫妻に華代の妊娠疑惑を話したのは、つい一昨日の事だという。
検査をしたのは昨日の夜だったそうだ。
その時点で結果は分かっていたらしい。
全て知っていたのに、愛はこの件を桃城夫妻から僕に伝えさせた。

「ねえ、お兄ちゃん。

華代が今日人工呼吸器を外されなかった事、ほっとした?」

「子供が無事なのは嬉しいよ。」

僕の子供を身籠っていると聞いた桃は、身体が硬直していた。
その直後に泣きながら大喜びしてくれた。
それでも、今後は山程の試練が待っている。
脳死状態で出産した事例は非常に珍しい。
無事に産まれるのか、不安要素は尽きない。

「あたし、怖い。」

「?」

「華代が人工呼吸器を外される事が分かったまま、2週間も過ごすのが怖い。」

華代が延命装置を外される日を知っていながら、2週間も過ごさなければいけない。
愛は俯きながら歩いた。

「この4日間、凄く怖かった。」

愛はぽつりぽつりと話した。
華代の息を引き取らせてしまう事や、華代の顔を見れなくなる日が分かっている事――それらを分かっているまま、4日間を過ごした。
僕は伏せられている愛の目を見たまま、愛の言葉を静かに聞いていた。

「怖かったけど、華代が亡くなるのを覚悟したの。

なのにそれが延びて、また同じ事を繰り返さなきゃいけない。

華代が亡くなるのを、また覚悟しなきゃいけない。

今度は2週間もあるのに、あたしは堪えられるのかな。」

愛は目に涙を浮かべたまま言葉を続けた。

「華代があんな機械を着けられているのを見るのも辛いよ。

でも華代が息を引き取るのも嫌。

自分が分からなくて…。」

苦しそうな愛を見て、僕には後悔の念が込み上げた。
自然と口が動いた。

「ごめんね。」

「…如何してお兄ちゃんが謝るの?」

愛が眉を寄せながら、僕の目を見た。
僕は唇を噛んだ。
華代の延命は華代と僕の子供の為だ。

「僕のせいで、華代の延命をしているようなものだから。」

「あたしそういうつもりで言った訳じゃ…!」

「僕はもう十分頑張った華代を、また頑張らせなきゃいけないんだ。」

これは後悔なのかな。
華代に命を授けてしまったことを、僕は後悔しているのかな。

「華代は喜んでるよ、きっと。」

目を見開く僕に、愛は無垢に微笑んだ。

「だって産まれて来る子供は、華代とお兄ちゃんの愛の結晶でしょ?」

僕は思わず声に出して笑った。
愛の気持ちが本当に嬉しかった。

「ちょっと、真剣に言ったんだけど!」

愛はムスッとした。
ごめんごめん、と謝った。
気持ちが少し楽になった気がした。
子供を華代に残したことを後悔していた自分が恥ずかしくなった。
君に宿った命は、僕らの愛の証しなんだよね。
心の中で、君にそっと話しかけた。
華代に申し訳ない気持ちは消し切れはしないけど、新しい命を大切にしようと思った。



2009.2.9




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