構って (第4章「構って」番外編)

『シルバー。』

「何だ。」

『構って。』

「もう少し待て。」

聴き覚えのある受け答えだった。
俺は今、ポケモンバトル上級者編≠読んでいる。
自室のソファーに腰を下ろし、エーフィ対策を練っている最中だ。
そのエーフィはというと、呑気に伸びをしている。
俺は本のページを捲っていたが、ポケモンたちとテレビを観ていた小夜が背後から声を掛けてきた。
因みにテレビで放送されているのはポケモン漫才だ。
ポケモンたちが笑っている。

『ねぇ。』

凜としながらも愛らしい声が聴こえる。
だが今回は邪魔されてたまるか。
俺は完全に彼女に振り回される彼氏だ。
いや、小夜にならそれも悪くないか…。
本の内容が頭に入ってこないにも関わらず、俺は太股の上に両肘を置き、前屈みになって本を読み始めた。
だが不意打ちが訪れるのは早かった。

「ぅ…!」

思わず声が出た。
小夜が俺の背中にスルスルと指を這わせたからだ。
ばか≠ニ書かれた。
自分の口元が不自然に引き攣ったのが分かった。
振り返って睨み付けてやろうと思ったが、小夜は次の文字を指で書いた。

すき

「…!」


―――ガシッ


気付けば小夜の手首を掴んでいた。
素早く振り返った俺を見る小夜の瞳が見開かれている。
そのまま小夜の腕を強く引くと、小夜が空いている手をソファーの背凭れに突いた。
俺は前屈みになった小夜の耳元で、不満を言うかのような表情でぼそっと言った。

「俺もだ、馬鹿野郎。」

小夜は頬を染めたが、すぐに微笑んだ。
そしてソファーの背凭れを身軽に飛び越え、俺の隣に柔らかく座った。
如何やら俺に構って貰えるまで大人しく待っているようだ。

『待ってるから。

後で構ってね。』

「分かってる。」

ポケモンたちは俺たち二人を気遣っているのか、ずっとテレビを観ている。
外は寒いが、この部屋は暖かい。
小夜からふんわりと優しい香りがした。



2015.8.6




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