ビロード (第4章「進化」番外編)
図鑑No.196
エーフィ
太陽ポケモン
芝生に腰を下ろしていたシルバーは、相変わらずポケモンバトル上級者編≠開いていた。
バトルで要注意すべきポケモンリストに、ボーマンダ以外にもエーフィが載っていたのだ。
エーフィは特殊攻撃力が高いが、体力と防御力に劣る為、接近戦に持ち込めば勝機はある。
だが小夜のエーフィは特殊能力を持ち合わせており、接近戦でも結界がカウンターの役割を果たす。
更にはマジックミラーで変化技を跳ね返し、朝の日差し≠ニいう回復技まで覚えているというおまけ付きだ。
“ふあー。”
シルバーの隣でエーフィが欠伸をした。
先程まで修行をしていたコイルと、その相手をしていたエーフィは現在休憩中だ。
シルバーの手持ちであるオーダイル、マニューラ、そしてクロバットの三匹は、小夜とバクフーンを交えて鬼ごっこをしている。
これから三匹共が修行予定だというのに元気なものだ。
シルバーの隣にいるコイルは少しでも体力を回復させようと芝生にごろりと寝転び、完全に意識が飛んでいる。
そしてコイルからシルバーを挟んでその隣にいるエーフィは、回復技の元となる大好きな太陽光を心地良さそうに浴びている。
「体毛はビロードの艶と肌触り…。」
エーフィを解説している文章の一行を読んだシルバーはエーフィを凝視する。
確かにエーフィの体毛はよく手入れされて艶があるが、これは六年前から続く小夜との入浴があるからだと思っていた。
小夜はポケモン用ボディーソープでエーフィを洗っている。
だがシルバーはビロードとやらに直接触れた事はなく、感触を確かめるようにエーフィに触れた事もない。
興味が湧いたシルバーはエーフィの耳の下に生えている体毛を手で軽く掴んだ。
途端にエーフィが嫌そうな顔をした。
“何するの。”
「いや、ちょっとな。」
滑らかでふわっと空気感のある手触りだ。
小夜がエーフィを膝に乗せたがるのも納得する。
エーフィにじとーっと睨まれるが、抵抗の様子がない為、エーフィの大きな耳の裏で体毛の感触を確認してみる。
“擽ったい!”
「悪い悪い。」
エーフィは不機嫌になると物を飛ばす事がある。
シルバーがエーフィに出逢って浅かった当初、小石を額にぶつけられた時は痛かった。
何とか宥めようとエーフィの小さな頭を慌ててわしわしと撫でると、エーフィは目を閉じて大人しくなった。
その間にもビロードとやらの肌触りを確認する。
シルバーはツンデレだと頻繁に言われるが、エーフィの事もツンデレだと思っていた。
がみがみ言うかと思えば、別のポケモンになったかのように小夜に甘える。
それにこうやって撫でられると、大人しくなって嬉しそうにする。
『あ、シルバーがエーフィを可愛がってる!』
鬼ごっこを抜けた小夜が走り寄ってきた。
シルバーはふっと笑った。
可愛がっているという事は否定しないでおこう。
「ビロードらしいぜ。」
『ポケモン図鑑ね。』
小夜はポケモン図鑑を全て暗記している為、何の話かを一瞬で理解した。
そして両膝を突き、にこにこしながらエーフィの顔を覗き込んだ。
エーフィはシルバーに不器用に撫でられ、満更でもなさそうな表情をしている。
小夜はシルバーがポケモンを撫でているのを見ると、心が温かくなった。
撫でられるのが好きなエーフィは腰を上げ、主人の胸に擦り寄った。
艶のある身体を丁寧に撫でられ、長い尾を上機嫌にゆらゆらと振る。
長年の相棒であるエーフィを優しく見つめる小夜の肌も、柔らかくて滑らかだとシルバーは思う。
非の打ち所が全くない白い肌は、何処か神聖とすら思える。
シルバーは操られるかのようにすっと片腕を伸ばし、小夜の頬に滑らせた。
『え…?』
小夜が頬を染め、真っ直ぐに見つめてくるシルバーに胸が高鳴った。
シルバーは紫の瞳に吸い込まれそうになる。
これが自分のものだと思うと、未だに信じられない気持ちになる時がある。
“はいはいお腹一杯だよー。”
「いてっ…!」
エーフィの尾に額をびしっと叩かれ、シルバーは小夜から慌てて離れた。
小夜は顔を火照らせたまま俯き、エーフィをぎゅうっと抱き締めた。
シルバーも照れ臭そうに頭を掻いた。
“二人共仲良しなんだから。”
恋愛感情など全く分からなかった小夜が、こんなに分かり易く照れるようになるとは。
エーフィは小夜に恋愛教育をしなければと腹を括った自分を懐かしんだ。
『ふふ、仲良しで良かったでしょう?』
“うん、まぁね。”
嘗ては、二人がくっ付かない事を二人のポケモンたち全員がもどかしく思ったものだ。
シルバーは照れ隠しなのか、フンと言って顔を背けた。
あの予知夢が現実となった後も、この平和な日常が何時までも続けばいい。
エーフィはそう思った。
きっとボーマンダたちもそう思っている筈だ。
小夜が如何なろうと受け入れる覚悟があるのは、シルバーだけではない。
2015.3.4
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