ポケモン爺さん

翌朝、今回の見送り場所は庭だった。
大袈裟に見送られるのも気が引けるから、と主張したシルバーの提案だった。
これは簡単なお遣いなのだ。
以前のようにマントで身体を隠す訳ではなく、服装も普段通りだ。
小夜からの手作り弁当もない。

『はい、ネンドールのボール。』

「助かる。」

オーキド博士とケンジは小夜の後ろで二人を見守っていた。
シルバーのポケモンたちは既にボールに戻り、ハガネールを含めた小夜のポケモンたちが見送りに出ている。
ネンドールはシルバーの隣で浮遊し、テレポートの準備万端だ。

「シルバー君、ポケモン爺さんに宜しく伝えてくれんか。」

「はい。」

オーキド博士に頷いたシルバーは、ケンジにも続けて声を掛けられた。

「お昼ごはんを準備して待ってるよ。」

「それまでには戻る。」

ポケモン爺さんと呼ばれる人物に逢ったら、トウカシティを少しだけ歩く。
そうしてホウエン地方を肌で感じたら、昼食までには戻る予定だ。

『いってらっしゃい。』

「ああ。」

シルバーがネンドールの沢山ある目の一つを見ると、身体と分離している片手を差し出された。
その手に触れると、小夜がシルバーの空いている手をぎゅっと握ってきた。
小夜は少しだけ眉尻を下げ、寂しげな表情をしている。
シルバーは優しい目をして言った。

「寝て待ってろ。」

『まだお昼寝の時間じゃないよ。』

「お前が寝ている間に戻ってきてやるよ。」

『…もう。』

小夜がやっと微笑んだのを見てから、シルバーは小夜と手を離した。
そして目を閉じ、オーキド博士から事前に見せて貰っていた写真と地図を思い浮かべる。
其処にあるのは、トウカシティのポケモンセンター。
テレポートの目的地だ。
そして、シルバーとネンドールは音もなく消えた。

『……気を付けて。』

小夜の呟きは、脚元にいたエーフィにだけ聴こえた。
主人を見上げると、何時の間にか神妙な表情をしていた。
その瞬間、エーフィは胸騒ぎがした。
それでも小夜はゆっくりと微笑み、穏やかに言った。

『戻ろっか。』



一方、シルバーとネンドールのテレポートは成功した。
トウカシティのポケモンセンター裏に到着し、先ずは人目がない事を確認した。
人目の多い場所で突然テレポートすれば、驚かれるだろう。
ぶつかる可能性もある。
ポケモンセンター裏には木々が生い茂っていた。
トウカシティというのは自然が多く、人口の多い街ではない、とオーキド博士から聴いている。

「ネンドール、助かった。」

シルバーは腰のベルトのモンスターボールホルダーからボールを一つ手に取り、頷くネンドールをその中に戻した。
地図がなくとも、トウカシティで唯一のホテルはすぐに見つかった。
ビジネスホテルとはいえ、街の外観を崩さない古風な建物だった。
白塗りの建物は年月により灰色へと変わり、幅の狭い三階建てだ。
手動ドアは重厚感があり、押すと鈍い音がした。
狭いロビーの床は光沢があり、壁は殆どがガラス張りだ。
外観よりも綺麗な印象だった。
フロントで受付を担当する年配の男性が、シルバーにお辞儀をした。
すると突然、シルバーは待合席に腰を下ろしていた見知らぬ人物に話し掛けられた。

「君がシルバー君か!」

「!」

ハットとスーツが茶色の人物だった。
紳士らしい格好の割に、この建物の外壁とよく似た灰色の髭が顎を覆っている。
爺さんと呼ばれているとはいえ、若々しい男性だ。

「わしがポケモン爺さんだ、宜しく。」

「シルバーです、宜しくお願いします。」

「さあ、来たまえ。」

ポケモン爺さんから握手を求められて応じたかと思えば、急かすように部屋へと案内された。
フロントの男性から「ごゆっくりどうぞ」という言葉が聴こえた。
ポケモン爺さんは嬉しそうに話し始めた。

「君が来るのを楽しみにしていたよ。

優秀な助手だそうじゃないか。」

「優秀か如何かは分かりませんが…。」

「イケメンだと聴いていたけど、本当だねえ。」

シルバーは冷や汗を掻いた。
オーキド博士は自分の事をこの人にどのように説明しているのだろうか。
ポケモン爺さんが借りている部屋は三階にあった。
スーツの内ポケットに入れていたルームキーを取り出し、古い木製のドアを開ける。
一般的なビジネスホテルの一室と何の変わりもない部屋で、シルバーの予想以上に広かった。

「さあ座ってくれ!」

シルバーは一つだけあった一人掛けソファーに座るよう催促された。
腰を下ろそうとした途端、大きな声がした。

「これが大発見なんだ!」

ポケモン爺さんは余程興奮しているのか、シルバーが目を丸くするのを全く気にしない。
銀色のスーツケースを開け、ごった返している中身から取り出したのは無地で小さな巾着袋だった。
そして巾着袋の口を開けると、掌サイズの何かを取り出した。
シルバーにはそれが何処にでも落ちていそうな石ころに見えた。
真っ黒で角ばった表面には光沢がなく、一見ザラついていそうだ。

「……これは?」

「分からん。」

「…。」

硬直しているシルバーに、ポケモン爺さんは話し始めた。
珍しい物が大好きなポケモン爺さんは、ジョウト地方からわざわざホウエン地方まで珍しい物探しに出掛けた。
川沿いに出ると、その場に転がっている石とは質感も色も違う石を一つだけ発見したのだという。
一目見た瞬間、これはお宝であるという己の勘がビビッと働いたのだ。
それがこの石だった。
これらを説明したポケモン爺さんは、シルバーが目をきょとんとさせているのを見て言った。

「今度こそ、大発見かもしれないんだ!

だがウツギ博士は取り合ってくれなくてね。」

珍しいであろう物を発見し、隣町に住むウツギ博士に調べて貰うのを繰り返していた。
だが本当に大発見だったのはトゲピーのタマゴのみで、他はガラクタばかりだった。
自分の研究に熱中したいウツギ博士は、ポケモン爺さんに耐え兼ねたのだ。

「其処でオーキド博士にお願いしようと思った次第だよ。

オーキド博士に連絡したら、助手を此方に向かわせると言ってくれてね。」

「な、なるほど。」

ポケモン爺さんは石を巾着袋に入れ直してから、シルバーに手渡した。
石は意外にもずしりと重い。

「確かに受け取りました。」

「宜しく頼んだよ。

今度こそ大発見かもしれないんだ!」

シルバーはなるべく自然に微笑んだが、不器用だったかもしれない。




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