一緒に行こう-2

あの後、談話室から一旦解散した。
小夜はオーキド博士と研究室へ、シルバーはこの部屋へ向かった。
一瞬の回想が終わった二人は、再び話し始めた。

「君はわしが旅に出ても構わんと言ったのを覚えておるかな?」

「覚えています。」


―――離れて生活するまで、旅をするのは許そう。

―――だが常に慎重に行動し、此処へ頻繁に帰ってきなさい。


ゴーストだったゲンガーが姿を隠しながらシルバーを観察し、仲間になりたいと希望した頃の話だ。
あの時、シルバーは旅に賛成か反対か、何も言わなかった。

「君は小夜の旅に反対なんじゃな。」

「正直に言うと、そうです。」

「わしは今でも君たちが旅に出てもいいと思っておるよ。」

予知夢を現実にしたくはない。
あれから予知夢には進展がなく、血飛沫が誰によるものかも分からないままだ。

「わしは君を信用しておる。」

シルバーはオーキド博士からの思わぬ台詞で目を見開いた。

「君やポケモンたちがいるなら、出掛ける程度は問題ない。」

「俺は…自分がトラブルを呼び込む人間だと思うんです。」

「そのトラブルを乗り越えてきたのは君と君のポケモンたちじゃろう。」

トキワの森でのゴルバットの事件。
ポケモンハンターに追われていたラティオスの事件。
結果的にトキワの森のポケモンたちの多くを救えたし、ラティオスを仲間に迎えられたのは喜ばしい。

「小夜は旅に出たがっておる。

一緒に行ってやってはくれんか?」

「はい。」

オーキド博士の言葉がシルバーの心に真っ直ぐ訴えかけ、思い悩んでいる心を軽くしていく。
小夜は六年間、この人の温かさに包まれながら育ってきたのだ。

「小夜なら庭におるよ。

君と話したがっておった。」

「今から行きます。」

個装が完了した薬を片付け、オーキド博士と一緒に部屋を出た。
階段に差し掛かると、シルバーは感謝を口にした。

「ありがとうございました。」

「構わんよ。

それじゃあ、また夕食の時に逢おう。」

シルバーは去っていく背中に頭を下げた。
オーキド博士という人間を深く尊敬する。

ベランダに出ると、小夜はネンドールとハガネールの二匹と話していた。
ネンドールのペンダントを開け、銀髪の彼の顔写真を眺めている。
シルバーの視線を感じ、縁側で立ち止まったままのシルバーに声を掛けた。

『シルバー。』

「…。」

シルバーは無言のまま歩き始め、小夜の傍にやってきた。
小夜はペンダントを手に持ったまま、神妙な面持ちのシルバーの顔を見た。

「時々、考える事がある。」

『?』

突然話し始めたシルバーに、小夜と二匹は目を瞬かせた。
シルバーがペンダントに視線を遣ると、彼の無表情が垣間見えた。

「あいつなら……予知夢を前に如何するのか。」

冷静沈着且つ頭脳明晰だった彼は、予知夢が不穏な未来を警告するこの状況を如何打開するのか。
彼が亡き今、それが分かる筈もない。
小夜はそっと微笑み、ペンダントを閉じた。
ネンドールとハガネールは彼に似た無表情で小夜を見つめている。
小夜はペンダントを両手で包み込み、瞳を閉じた。

『きっと守ってくれるから。』

小夜はペンダントから手を離すと、シルバーの前に歩み寄った。
透き通った瞳でシルバーを見上げ、その両手を握った。

『だから一緒に行こうよ、シルバー。』

旅、お出掛け、そして未来へ。
シルバーは何時ものようにフンと笑うと、小夜の手を握り返した。

「行ってやるよ、何処までもな。」

今後も小夜に振り回される日々を過ごすのだろう。
だが、それでも構わない。



2017.1.22




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