志願-2
朝食を終えて自室に戻ったシルバーは椅子に腰を下ろし、作業用の机に向き合っていた。
沢山の書類をファイルに纏めていたが、小夜の通訳で椅子を回転させた。
肘掛けに頬杖を突き、目を輝かせるレアコイルの顔を見た。
「なるほどな。
進化したい、か。」
『そう。』
“そう!”
シルバーは机の本棚から一冊の本を手に取った。
表紙にはポケモンの進化≠ニある。
以前からレアコイルの進化を意識し、この本棚に立ててあったのだ。
目次でジバコイルのページを探した。
「確か、ジバコイルに進化するには特定の場所に行く必要がある。」
レアコイルはどのようにジバコイルに進化するのか、知識になかった。
クロバットのように懐き度で進化するのではないとは確信していた。
何故なら、自分はシルバーに物凄く懐いている自信があるからだ。
だが特定の場所≠ニいう台詞はレアコイルを不安にさせた。
“と、特定の場所…。”
『行けばいいんでしょう?』
カーペットに腰を下ろす小夜が、ボーマンダの首を擽りながらマイペースに言った。
ジバコイルのページを見つけたシルバーは、小夜を見て途端に眉を寄せた。
『旅に出たいってオーキド博士に話してくる!』
「おいこら、待て!」
小夜は立ち上がり、優美な髪を揺らしながら小走りで部屋を出た。
本を置いたシルバーがそれを慌てて追い、レアコイルは唖然とした。
欠伸をしたボーマンダは焦りを全く見せず、のんびりと言った。
“小夜はついに旅に出るつもりだね。”
“駄目だよ、シルバーは反対するよ…!”
レアコイルの不安が的中した。
予知夢が現実となる日まで、シルバーは小夜をマサラタウンの外に出したくはない筈だ。
レアコイルは全てが落ち着いてから旅に出たいと思っていたのに。
まさか進化する為に特定の場所に出向かなければならないとは思っていなかった。
無知な自分に項垂れてしまう。
“皆、ごめん…。
僕はこんなつもりじゃ…。”
“小夜の早とちりだよ、君は悪くない。”
バクフーンはレアコイルのぴかぴかの身体をきゅっきゅと摩って慰めた。
レアコイルに悪意がない事は誰もが理解している。
“私は小夜が旅に出てもいいと思う。”
エーフィの台詞だった。
皆の驚きの目がエーフィに集中する。
“だって皆を見てよ。”
ポケモンたちが不思議そうに顔を合わせた。
小夜と六年もの間、修行をこなしたエーフィとボーマンダ。
小夜の説教担当且つ伝説のポケモン、スイクン。
日々修行を重ねるバクフーンやシルバーのポケモンたち。
先日にも仲間になったばかりの幻のポケモン、ラティオス。
この中にメガ進化が可能なポケモンが三匹。
“頼もしいメンバーでしょ?”
エーフィは自信満々だった。
小夜は予知夢が現実になるのを待つよりも、旅に出たいと言っていた。
自分は小夜のポケモンだ。
小夜についていく覚悟はある。
その場にいるポケモンたちも、エーフィの台詞で自信が湧いてきた。
このメンバーなら予知夢にも立ち向かえる。
皆の結束は非常に固い。
“俺たちで御主人と小夜を守るんだ。”
オーダイルの台詞には力強さがあった。
今後の難点に立ち向かう為に、ポケモンたちは修行を重ねているのだ。
気合いの入ったオーダイルは拳を握っていたが、その次には冷や汗を掻いた。
“でもさっきの様子を見る限り、御主人は小夜の旅に反対しそうだね…。”
“私たちは二人についていくまでだよ。”
エーフィの台詞に皆が賛同した。
二人の主人がどのような答えを導き出したとしても、何処までも共に行く。
2017.1.15
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