開始
「そのポケモンは…。」
シルバーが指差した先にいたポケモンを見たシゲルは、目を細めた。
スイクンの背後に隠れたゴーストに見覚えがある。
そう気付いた時には目を見開いていた。
「僕のゴーストが如何して君たちの処に…?」
シゲルはゴーストを覚えていた。
ゴースを複数捕まえたシゲルが、このゴーストを自分の手持ちであると気付いたのだ。
シルバーはシゲルがどのゴーストも同じに見えるかと思っていたが、そうではなかった。
シルバーは小夜の潤んだ瞳を見つめた。
「審判の位置へ行ってくれ。」
『うん。』
シルバーとシゲルはたった今からバトルをするつもりだ。
小夜はシルバーの要望に素直に応じた。
そしてシルバーのポケモンたちが毎日の修行に使用している場へと脚を運んだ。
「ゴースト、来い。」
訳の分からないといった表情をするシゲルに説明すべく、シルバーはゴーストを呼んだ。
ゴーストはふらふらと控えめに浮遊し、シルバーの隣までやってきた。
シゲルはシルバーを不安げに見つめるゴーストを見つめた。
この様子だと、シルバーとゴーストはかなり慣れ親しんでいるように見える。
シルバーは冷静に言った。
「こいつは俺のポケモンになる事を望んでいる。」
「如何して君のポケモンになるのを望む必要がある?
僕の知らない処で何が…。」
『シゲル。』
凛とした声がした。
それはシゲルの耳でやけに響き、この状況の中で自らの恋心が胸を掠めた。
小夜は真剣に言った。
『ゴーストはシルバーの人間性に惹かれたの。』
自分の人間性とは何だろうか。
それが分からないまま、シルバーは口を開いた。
「この研究所の森で暮らすよりも、トレーナーの傍にいる事が幸せだと思っているんだ。」
簡単に言えばそういう事だ。
小夜はシルバーの台詞に頷いた。
シゲルは無意識にぽつりと言った。
「トレーナーの、傍…。」
そのまま視線を斜め下に落とし、深く考え込んだ。
反論しないシゲルを見たシルバーは目を小さく瞬かせた。
オーキド博士の台詞が頭を過る。
―――シゲルの考え方も変わり始めておる。
「僕は…。」
シゲルは目を閉じ、今までの自分の行動を思い出した。
そっと目を開けると、ゴーストと目が合った。
ゴーストが目を逸らしそうになったのも束の間、シルバーの声がした。
「話をバトルに戻す。
俺の条件を飲むのか?」
「分かった。
バトルだ。」
シゲルはモンスターボールを手に取った。
シルバーのポケモンたちは全員がシルバーの後方にいる。
つまりは面が割れてしまっている。
シルバーは好戦的に口角を上げた。
さて、如何するか。
「バトル形式は君が決めればいい。」
「シングルバトル。
使用ポケモンは一体だ。」
「いいよ。」
シゲルは手に持っていたボールに唇を落とすと、先にボールを放った。
シゲルらしい放ち方で現れたのはカメックスだった。
オーキド博士から初めて貰ったゼニガメが進化したのだ。
シルバーは全く動じず、オーダイルの目を見た。
「お前に決める。」
隣にいたオーダイルはシルバーの目を見て頷いた。
シルバーのポケモンたちはシルバーの選択がオーダイルだと察していたらしく、オーダイルに激励の言葉を贈った。
“オーダイル…。”
ゴーストの弱々しい声がした。
オーダイルは何も言わないまま、自信を持って頷いた。
小夜はその様子をじっと見つめていた。
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