夜-2

オーキド博士とシルバーと共に食事を済ませた小夜は、エーフィと共に入浴していた。
仲間入りを果たしたハガネールはその巨体から部屋に出入り出来ない為、オーキド研究所の庭に放してある。
小夜の入浴中、既に風呂上がりであるシルバーは、小夜の部屋の椅子の上で様々な思いを巡らせていた。
もう暗くなった外を眺めながら、ピュアーズロックでのサカキの発言を嫌でも思い起こしてしまう。


―――守られてばかりのお前が私を倒せるのか?

―――シルバー、お前は弱い。


「…畜生…。」

シルバーが思い悩む一方で、ボーマンダは外の物干し竿から回収したふわふわのカーペットに寝転がっていた。
このカーペットは小夜が此処に身を置いていた頃、ボーマンダがずっとお気に入りだったものだ。
窓にはボーマンダの姿が反射して映っている。
Tシャツと半ズボンという部屋着のシルバーの目に、ボーマンダの間抜けな姿が映り込んでいた。
カーペットがお気に入りのボーマンダの上にはニドリーノが乗っている。
ニドリーノは兄のようなボーマンダが大好きだった。
エーフィ用の丸型ベッドにはニューラが心地良さそうに乗っているが、後でエーフィにどやされそうだ。
バクフーンとアリゲイツは今後の小夜とシルバーについて語り合っていた。

“御主人の恋は叶うと思う?”

アリゲイツの問いに、バクフーンはうーんと唸ってから言った。

“今の小夜は暫く恋愛出来ないと思うけど、可能性はあるかも。”

バショウから夢で最後に何を言われたか、小夜の手持ちであるエーフィたちは既に耳にしていた。
バショウはシルバーに小夜を託した。
更には「大切な人が出来たら愛してあげて下さい」とまで言った。
小夜を大切に思うシルバーが小夜と結ばれる事を、バショウは望んでいるのかもしれない。
アリゲイツは何か悩んでいるシルバーへと視線を注いだ。
シルバーは手持ちである自分に何も相談してくれない。
何時か相談事を持ち掛けてくれる日が来るだろうか。
シルバーはポケモンの言葉が理解出来ないが、悩みを一方的に話してくれるだけでもアリゲイツには嬉しい事なのだが。
アリゲイツの視線の先を追ったバクフーンもシルバーを凝視した。

「何だよ。」

シルバーは二匹の視線に気付くと、普段より声の音量を下げてそう言った。
バクフーンとアリゲイツは何かを悩んでいる様子のシルバーに近寄った。
小指を立てて首を傾げるバクフーンに、シルバーは何を意味しているのかと一瞬考えた。

「小夜の事で悩んでいるのか、って?

まあ…そうだな。」

渋々認めたシルバーの肩を、バクフーンは何時ものようにぽんぽんと叩いた。
身長の低いアリゲイツもその真似をして、シルバーの脚をぽんぽんと叩いた。
この二匹なりの慰め方だった。

「そうかよ、お前ら慰めてくれるのかよ。」

それを見たゴルバットがシルバーの頭に乗った。
シルバーの前髪が目の前に掛かった。

「おい、お前この前から俺の頭の上を気に入っていないか?」

ズバットから進化したゴルバットは意外と重い。
バクフーンが何とも間抜けなシルバーの姿にぷっと吹き出した。
それに苛立ったシルバーは頭上のゴルバットを引っ掴んでやろうとしたが、見事にすり抜けられてしまった。

「待ちやがれ!」

ゴルバットの脚を掴もうと試みるシルバーだが、素早さの能力が高いゴルバットはすいすいとシルバーの腕を避ける。
アリゲイツが面白がってジャンプし、バクフーンはけらけらと笑った。
その時、シルバーはカーペットの上で横たわっていたボーマンダの尾を踏んでしまった。

「ふが!!」

変な声を発したボーマンダはシルバーを睨んで起き上がり、その背に乗っていたニドリーノが落下した。

「うっ、悪い!」

謝罪したシルバーに対して、ボーマンダは目を妖しく輝かせた。
そして長い首でアリゲイツの首根っこを噛むと、シルバーへ放り投げた。

「な?!」

目を丸くしたアリゲイツはシルバーが予想した以上に緩いカーブを描きながら、シルバーの頭上へ投げ出された。
シルバーは咄嗟にそれを受け止めたが、背中から転倒した。

「いてぇ…。」

“御主人、大丈夫か!”

アリゲイツがそう言うも、シルバーはポケモンの言葉を理解出来ない。
他のポケモンたちはシルバーとアリゲイツを微笑ましい目で見つめていた。
この状況を意図していたボーマンダは自信満々で踏ん反り返り、ふんと鼻を鳴らした。


―――ガチャリ


『ただいま――って何してるの?』

部屋に帰ってきた小夜は目を見張った。
シルバーが手持ちポケモンを腕に抱いている。
しかも寝転びながら。
かあっと赤くなった赤面症シルバーは勢いよく起き上がり、ボーマンダを睨んだ。

「てめぇわざとやったな!」

ボーマンダは普段のシルバーの真似をしてぷいっと顔を逸らした。
シルバーは小さく舌打ちをしたが、腕のアリゲイツが離れようとしない。

「…。」

如何したらいいのか分からなくなったシルバーは、小夜の瞳をちらりと覗った。
小夜はエーフィと共に微笑んでいる。
小夜の笑顔が見れたならいいか、とシルバーは妥協し、アリゲイツを腕に抱いたまま僅かに微笑んだ。




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