惹かれる心-4
こうして抱き締められると、独りではないんだと何時も実感出来る。
最も傍にいてくれるシルバーが、最も温もりを与えてくれる。
彼の気持ちは充分過ぎる程に伝わってくる。
「今思っている事を言ってもいいか?」
耳元で囁くように言われると、小夜は胸が高鳴った。
「キスされてもいいと思ったのか?」
『うん。』
「お前やっぱり馬鹿だな。
好きでもない男に…。」
『誰が何時好きじゃないって言ったの?』
「は?」
小夜はシルバーの肩を押して身体を離し、シルバーと視線を合わせた。
好きではない、という事を否定されたシルバーは一瞬思考が停止した。
「それは…それは如何いう意味だ…?」
『シルバー、聴いて。』
真剣な小夜の声に、シルバーは固唾を呑んだ。
小夜は先程引っ張っていたシルバーの頬に包むようにして触れた。
『私はバショウを忘れられない。
生涯ずっと愛したままだと思う。』
「…。」
『それでもいいの?』
視線を絡め合ったまま、小夜の瞳に涙が溢れた。
零れそうになった時、シルバーが親指でそれを拭った。
「あいつはお前の為に命を懸けた。
忘れてやるなよ。
ずっと、愛してやれ。」
『本気で言ってるの?』
「綺麗事だと思うかもしれないが、本当にそう思ってる。」
虚偽のない目は真っ直ぐに小夜を見つめている。
シルバーは一切嘘を吐いてはいなかった。
「お前が人間じゃない事も、あいつを想い続ける事も、受け止める覚悟はある。」
『…っ。』
次々と溢れる涙はシルバーの指で拭いきれなくなり、小夜は自分の手で瞳を擦った。
シルバーは小夜の頭を自分の肩に引き寄せた。
小夜の涙はシルバーのTシャツに染みを作ってゆく。
『馬鹿、馬鹿…!』
「お前もな。」
オーキド博士を始めとして、バショウもシルバーも――如何して自分の周りにいる男性はこうも優しいのだろうか。
小夜は一頻り泣くと、シルバーの肩からゆっくり顔を上げた。
「大丈夫か?」
『うん。』
涙で瞳が腫れてしまった小夜は、弱々しく微笑んだ。
シルバーは遠慮がちに小夜の顔を覗き込んだ。
「結局、如何なんだよ。」
『え?』
「俺の事。」
『あ…。』
小夜は瞳を逸らした。
『え、っと…。』
胸の前で拳をぎゅっと握りながら、小夜は躊躇った。
シルバーは不安を隠しきれずに表情を曇らせた。
『私…。』
「…。」
『私、は…。』
頑固な小夜が視線を逸らすのは、戸惑いがある証拠だった。
何時までも口籠る小夜に、シルバーは微笑んだ。
「やっぱりいい。」
『?』
「まだ、言わなくていい。」
ニューアイランドの件以降、まだ日は浅い。
小夜が気持ちを整理出来ていないのなら、整理出来るまで、シルバーは待つつもりだった。
能力が制限されてしまう程に傷心している小夜を、急かすつもりも一切ない。
シルバーは小夜の頬に手を伸ばした。
「まだ答えを求める気はないと、告白した時に言ったばかりだったな。
お前が心を決めた時に言ってくれたらいい。」
『シルバー…。』
頬を撫でてくれる手が温かい。
手が温かい人は心が冷たいと世間では言うが、そんな事はないと小夜は心から思った。
「後、その時はお前からキスしろ。」
『へっ?!』
「いいな。」
『ちょっと、如何して?!』
「何だよ、水中ではキスしてきただろ。」
『あれは口移し!』
「どっちも同じだ。」
シルバーは悪戯っぽく笑い、くしゃっと小夜の頭を撫でた。
普段ならばマイペースな小夜にシルバーが振り回されるが、今回は小夜がシルバーのペースに持っていかれていた。
それが小夜は何だか悔しかった。
「小夜。」
『何よ。』
「好きだ。」
顔を真っ赤にして口を結んだ小夜を、シルバーは大切に腕の中に閉じ込めた。
2013.3.19
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