二度目の旅立ち-2
一週間後。
空は雲一つない爽やかな快晴だった。
オーキド研究所で身体を充分に休めた二人は、正門にてオーキド博士から見送りを受けていた。
シルバーから見た小夜はこの数日安定していた。
夜に寄り添って寝たのも一度きりだった。
シルバーの前では涙を溢さない小夜だが、一人になった瞬間に涙はコントロール出来なくなる事が多々あった。
だがそれも数日経過して落ち着き、寛大なオーキド博士の温かさに包まれたこの研究所に身を置く事は、小夜の心の癒しにもなった。
小夜はモンスターボールの関係でネンドールを旅に連れていけない為、ハガネールと共に研究所へ預ける事にした。
この件に関しては、ハガネールとネンドールには事前に綿密に話をしてある。
二匹は庭のポケモンと上手く付き合っているし、此処での生活は苦にならない筈だ。
『オーキド博士、最後に訊きたい事があるんですけど。』
「うむ、何かな?」
小夜は腰のバッグからあの白い鈴を取り出した。
紐の部分を持って振るが、やはり音は出ない。
『この鈴の名は、癒しの鈴と言っていましたよね?
この鈴には癒しの効果があるんですか?』
「実はわしにもよく分かっておらん。
君なら使いこなせるかもしれんと思って渡したんじゃ。」
小夜とエーフィがその鈴を其々一度ずつ鳴らした事は、小夜の口からオーキド博士に報告してある。
小夜は鈴をシルバーに渡すが、シルバーが振ってみても鈴は沈黙を貫いている。
「だがその鈴に癒しの能力がある事は分かった。
また危機に直面した時に振ってみなさい。」
『はい。』
シルバーは小夜に鈴を返し、小夜はバッグにそれを大切にしまった。
この鈴がなければ、ミュウツーとの戦闘で瀕死状態になった小夜は此処にはいないだろう。
『それじゃあ、そろそろ。』
「何時でも帰ってくるんじゃよ。」
『ポケモンセンターから連絡します。
勿論、ポケナビでも。』
「うむ。
シルバー君、小夜を頼んだぞ。」
「はい。」
シルバーはオーキド博士の目を真っ直ぐに見て頷いた。
『ネンドールとハガネールをお願いします。』
「任せなさい。」
『では、いってきます。』
「気を付けるんじゃぞ。」
二人はオーキド博士にお辞儀をすると、研究所に背を向けた。
小夜は何度も振り向いて手を大きく振った。
オーキド博士は二人が見えなくなるまで見送った。
田舎町を歩きながら、小夜はシルバーに言った。
『シルバー、これからも宜しくね。』
「何だよ、気持ち悪いな。」
『気持ちを新たにするの。』
小夜は歩を止めずに帽子のつばを上げると、空を見上げた。
真夏の太陽がきらきらと輝いている。
今日からロケット団に拘束されない自由な旅が始まる。
バショウ、自由をありがとう。
私は貴方がくれた自由を無駄にはしない。
寂しい、恋しい、逢いたい。
その気持ちを割り切るのには時間が掛かるかもしれない。
でも私は強くなるよ。
ねぇ、空から見ていますか?
温かく緩やかな風が吹き抜け、二人の髪を柔らかく撫でた。
バショウが微笑んでくれた気がした。
2013.3.5
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