夜-4

庭を住処とする夜行性のホーホーの鳴き声を耳にしながら、二人の夜は粛々と過ぎていく。
小夜は力なく下ろしていた腕を動かし、シルバーの背にそっと回した。
言うまでもなくシルバーの心臓は跳ね、赤面した。

『今ね、温もりが凄く嬉しいの。』

「…。」

『オーキド博士もバクフーンも、皆抱き締めてくれる。』

シルバーは微かに鼻で笑った。
以前にもバクフーンと一緒にされた事はあったが、今回はオーキド博士が追加された。
バクフーンとオーキド博士と同じ分類にされたシルバーは、小夜が自分に対して恋愛感情がないと改めて確認した。
もはやショックを受け馴れてしまったシルバーが小夜の肩を押すと、二人の身体は離れた。

『怪我、部屋で消毒しないと。』

「いや、いい。

この程度ならすぐに治る。

それよりも話がある。」

『話…?』

星が夜空から見守る中、二人は視線を絡ませ合った。
月がない今夜は、外灯の明かりが頼りだ。

「俺はお前の傍にいる、と誓ったよな。」

『うん。』


―――私、馬鹿みたいに泣くと思う。

―――それでもシルバーは私の傍にいてくれる?

―――ああ、誓う。


「今日のお前を見て……正直、自信がなくなった。」

『何を言いたいの?』

冷静な声色は変わらずとも、小夜の表情が曇る。

「お前が知らない間にあいつに言われたんだ。

もしもの事があれば、俺が小夜を守れるのか、ってな。」


―――私にもしもの事があれば、君は小夜を守れますか?


『バショウがそんな事を…。』

「あの時は馬鹿を言うなと強気で言い返した。

あいつの悪い冗談だと思っていた。

それがまさか…本当にこうなるとは思っていなかったんだ。」

だが小夜が持つという自分が死ぬ証拠の存在を知ったバショウは、自分の死を予期していた。
バショウは小夜をシルバーに託して死んでいった。
今ならそれがシルバーにも分かる。

「お前は強い。」

トレーナーとしても強い。
且つ俺たちを守る存在としても、強い。

「だが俺は守られてばかりだ。」


―――守られてばかりのお前が私を倒せるのか?

―――シルバー、お前は弱い。


シルバーがサカキから吐き捨てられた台詞は何度でも頭を巡る。
更には小夜とシルバーの子供を作るなどと馬鹿げた事もほざいていた。

「俺はお前を守る自信も、支える自信もない。」

『私、物理的にはシルバーを守ってるのかもしれない。

でも精神的には支えられてばかりだと思う。

今だってそうでしょ?』

「…。」

本当にそうなのか、シルバーには自信がなかった。
小夜が口で言っているだけかもしれない。

「俺なんかでいいのか、不安になる。」

『私の傍にいるのがシルバーじゃなくて他の人の方がいいんじゃないかって事?』

「それもあるが…。」

自分はバショウではない。
小夜がバショウの存在を望む今、力不足でしかない自分が小夜の傍にいてもいいのだろうか。
技が出せなくなる程の精神的ショックを受けている小夜を見て、それを支えられる器が自分にあるのか。
以前、小夜を支えると大口を叩いたが、やはり不安だ。
片脚を立てて座り込んで俯いているシルバーの顔を、同じく芝生に腰を下ろしている小夜は覗き込んだ。

『ばーか。』

「な…!

こっちは真剣に話しているんだぞ!」

『何度だって言うよ、ばーか。』

「てめぇ…!」

以前から小夜はシルバーに対してばーか≠ニ言う事が多い。
その度にシルバーは苛立つのであった。
今度は小夜が俯き、シルバーは自分が悪い事をしているような気分になった。

『シルバーがいいの。』

「…!」

小夜は依然として俯いたままそう呟いた。
シルバーは自分の耳を疑った。

『もう一度言おうか?

シルバーがいい、って言ったの。』

「っ。」

シルバーは無意識に小夜の腕を乱暴に引き、その身体を腕の中に閉じ込めた。

「お前が辛い時にこうやって温もりを与えてやるのは…俺でいいのかよ。」

『うん。』

「俺はあいつじゃないぜ?」

『バショウはもういない。』

どれだけ強く望んでも。
どれだけ強く祈っても。
彼は戻ってこない。

『バショウがいない今、傍にいて欲しいのはシルバーなの。

そう思っちゃ駄目かな。』

小夜はシルバーの背にそっと腕を回し、シルバーの肩に頬を寄せた。

「力不足じゃないか?」

『力不足って何?

私、シルバーとバショウを比べた事なんて一度もないよ。』

「……馬鹿野郎。」

余計に惚れてしまいそうだ。

『私、シルバーといると安心するの。』

シルバーが小夜の艶のある髪を撫でようと、腕を上げようとした時。

『ふふ。』

小夜が不自然に妖しく笑い、シルバーが眉を寄せた。

『上。』

「上?」

シルバーが上を見上げると、暗闇の中で小夜の部屋のベランダから二人のポケモンたちが全員覗き込んでいるのが見えた。

「っ…!!」

一気に真っ赤になったシルバーは、咄嗟に小夜の身体を腕に抱くのを止めて立ち上がった。

「てめぇら覗いてんじゃねぇ!!

さっさと寝やがれ!!」

ポケモンたちを見上げるシルバーが激怒する間にも、ポケモンたちはにやにやしながら部屋へそそくさと逃げ入っていった。

「くそ、何時から覗いてやがった!」

『ばーか辺りから。』

「おい、かなり前じゃねぇかよ…。」

『いいじゃない、別に。』

「よくねぇだろ…!」

シルバーはがしがしと頭を掻いた。
今後、これまで以上に色々と悩みそうだ。



2013.3.1




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