13-1

俺の腕に頭を預けて眠っているのは、恋人である那桜だ。
無邪気な寝顔が愛おしくて、そっと撫でるようにその頬に触れた。

―――たとえどのような状況下で出逢ったとしても、私は煉獄さんに心惹かれたと思います。

恥じらうと俯いたり視線を逸らしたりする那桜が、俺の目を真っ直ぐに見ていた。
俺は那桜を侮っていたようだ。
那桜は俺が思う以上に、芯が強い。
俺を心から慕ってくれていると自惚れてしまう。

―――いいのか、このままでは本当に抱いてしまうぞ。
―――構いません。

迷いのない那桜に、昨夜は流されそうになった。
俺は那桜を大切にしたいと心から願っているというのに。
長らく口付けを交わしていたが、あれは手出しに入るだろうか。
朝からあれやこれやと思考を巡らせていると、那桜の綺麗な目が薄らと開いた。
どうやら、お目覚めのようだ。

「おはよう」
「……え…煉獄さん?…えっ?」

至近距離で互いの視線が交わると、那桜の頬が瞬く間に紅潮した。
那桜は弾けるように上体を起こした。
その勢いで掛け布団が一気に捲れた。
那桜は俺を見て目を瞬かせた後、両膝を抱えて俯いてしまった。
恥じらっているのだとすぐに分かった俺は、ゆっくりと上体を起こし、那桜の肩を抱いた。

「………幸せです」

那桜が囁くように呟いた台詞を、俺は聞き逃さなかった。
俺も幸せだと言おうとした時、那桜が突然顔を上げ、驚いた様子で俺の目を見た。

「悪夢を…見ませんでした」

那桜が己の頬に触れても、涙の痕跡はない。
昨夜は長い口付けの後、那桜に腕を貸すと、すんなりと眠りに落ちていた。

「こんなにゆっくりと眠れたのは久し振りです」
「良かった、心配したぞ」

那桜が眠りに落ち、且つ魘されていないのを暫く見守ってから、俺も眠った。
寄り添って眠る温もりが、俺の心に幸福感を与えてくれた。

「煉獄さんのお陰ですね。
温かくて、よく眠れました」

那桜は縋るように抱き着いてきた。
俺は那桜の華奢な体を両腕で包み込み、優しく受け止めた。

「やっぱり煉獄さんは私を守ってくださるんですね」

那桜の言葉には感謝が込められていた。
俺は願望を口にした。

「寄り添って眠ることで君を悪夢から守れるのなら、毎晩でも傍にいたい」
「ありがとうございます。
ですが、煉獄さんは鬼殺隊の炎柱です」

陽光に焼かれる鬼が活動するのは、夜だ。
鬼殺隊としての任務も、必然的に夜が多い。

「煉獄さんは柱としての責務があります。
時々で構いませんので、私と共に過ごしていただければ…それだけで嬉しいです」

炎柱として任務に勤しむ俺に、那桜は我儘を言わない。
任務で逢えない日々が続こうとも、文に不満が綴られていたことは一度もないのだ。

「もっと甘えてくれても構わないのだが」
「こんなにも甘えているのに?」
「もっとだ」

俺の胸板に頬を擦り寄せる那桜を、心から愛しく思う。
那桜の髪に唇を落とし、抱き締める腕に力を込めた。





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