7

―――アフロディーテ。
―――おいで。

あの時、色々な意味でドキリとした。
猫の姿を暗くない場所で見られたから、アニメーガスだと気付かれてしまったかと思った。
でも、あの二人はルーナに何も詮索しなかった。
あの時のジョージの手つきがとても優しくて、つい抱っこされてしまった。
この柔らかい体毛のせいで、くしゃくしゃに撫でられるかと思ったけど、ジョージは丁寧で優しかった。
あの赤毛と優しい顔立ちが、印象に残っている。

「なんて可愛いの!
私も猫を飼おうかしら」

消灯時間前のグリフィンドールの談話室には、あのお騒がせ三人組がいた。
私が監視の対象とする要注意人物の三人だ。
私は暖炉の前にあるソファーに腰を下ろし、三人と一緒にいた。
ハーマイオニー・グレンジャーが猫の姿をした私を見て、ずっと目を輝かせていた。
ロナルド・ウィーズリーが私に手を伸ばした。

「このふわふわ触ってみたいよ…。
頼むよ、いいだろ?」

ロンが私に何度も手を伸ばそうとするから、その度にハーマイオニーがロンの手をピシャリと叩いた。
さっきは監視の最重要人物であるハリー・ポッターにも撫でられそうになった。
でも、私が身を引いて拒否を見せると、きちんと諦めてくれた。
それなのに、ロンは何度も触ろうとしてくるのだ。

「おやおや皆さんお揃いで!」
「何のパーティーだい?」

この声はあの双子だ。
此方に来た二人は私を見て、目を丸くした。
フレッドが得意げに言った。

「君たちはこの猫に触ったかい?
いいや、触れなかったんだろ?」
「この猫を知ってるの?
急に現れたんだよ。
もしかして、魔法生物かな?」

ハリーが興味深そうに訊ねた。
その間にも、ジョージは私と視線を合わせたままだ。
そんなに見つめられると、正体を見透かされそうで怖い。
フレッドがジョージにニヤニヤしながら言った。

「偶然見かけた事があるんだ。
ジョージは抱っこしたんだぜ」
「羨ましいわ!」

ハーマイオニーは猫好きのようだ。
私はマイペースに毛繕いを始めた。
猫らしさを演じようとしているというより、猫になると自然と毛繕いをしたくなるのだ。

この三人を監視する為にグリフィンドールの談話室に入ったけど、特に怪しい会話をしている様子はない。
寧ろ、猫である私にひたすら興味津々だ。
すると、ひょいっと抱っこされた。
この手つきと匂いは、ジョージのものではない。
私は身を捩って暴れると、ソファーの上に着地した。

「やっぱり俺じゃ駄目か」

今の手はフレッドだった。
ルーナにも話してあるけど、猫の姿をした私は雑な手つきで触られるのが苦手だ。
ハリーが威嚇気味の私を見ながら言った。

「この子、レイブンクローのあの子に似てるよね。
アフロディーテ・スチュワート」

ドキリとした。
もうその話はいいじゃないか。
マイペースなフレッドがハリーに言った。

「あの可愛い子だろ?
本人が言ってたけど、あの子の猫じゃないらしいぜ」
「きっと魔法生物だわ。
こんなに綺麗な猫、見た事ないもの」

フレッドとハーマイオニーがそう話している間に、ジョージは私の座っているソファーの背凭れに腕を乗せた。
私の顔をじっと窺ってから、手を伸ばしてきた。
思わずビクッとしたけど、ジョージはそっと頭を撫でてくれた。
ロンが感嘆の声を上げた。

「凄いや!
僕らは全然触れなかったのに!」

ジョージは丁寧に私を抱き上げ、腕の中に収めた。
背中に手を添えて、私が腰を下ろすような体勢を取らせてくれる。
ジョージに抱っこされるのは、義母やルーナと比較しても凄く楽だ。

「喉が鳴ってるわ」
「本当だ」

ハーマイオニーとロンが私を覗き込んだ。
ジョージが私の喉辺りを指先で擽るように撫でるから、私は自然と喉をゴロゴロと鳴らしていた。
ハーマイオニーとロンが見つめてくるから、ジョージの方にふいっと顔を背けた。
ジョージは私を二人から遠ざけた。

「駄目だぞ、二人共。
怖がらせたら逃げるだろ」
「ジョージはこの猫をアフロディーテだと思って可愛がってるんだぜ」

フレッドの台詞で、ジョージの顔が真っ赤になった。
ロンが面白がって話に乗っかった。

「ジョージってあの子を狙ってるの?
あの子モテモテらしいから、競争率高いよ」
「ロニー坊やまで同じ事言うなって…!」

ジョージは動揺している様子だけど、私を抱く腕は依然として優しかった。
フレッドが更にジョージをからかった。

「ジョージはアフロディーテにお熱だからな」
「違うって!」

私にお熱?
ジョージと私は少ししか話をした事がないのに。
お熱だなんて、錯覚だ。
気付けば、消灯時間を過ぎていた。
ロンが欠伸をして、それがハリーにも伝染した。

「もう寝よっか、ハリー」
「そうだね、部屋に戻ろう」
「私も女子寮に戻るわ。
猫ちゃんもおやすみなさい」

三人と双子がおやすみの挨拶を交わした。
一方の私はジョージの優しい匂いで目を閉じていた。
双子が何かを話しているのが聞こえるけど、眠たくて上手く聞こえない。
螺旋階段を上がるような振動を身体に感じた後、ふかふかした何かの上に身体を降ろされた。
余計に眠くなり、そのまますうっと眠りについた。



2019.6.14




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