出勤-2
シルバーがデボンコーポレーションに提供したのは、様々なウイルスに対して応用可能な検出法だ。
そのウイルス検出法を医療特許に申請し、更に取得する事で、各地のポケモンセンターや医療センターに普及させたい。
それまでには長い道のりがあり、その安全性が認められるまで、特許取得には至らない。
長ければ五年もの月日が必要なのだという。
現在はその検出法専用の機器を開発するべく、シルバーはデボンコーポレーションで働いているのだ。
それが今回のプロジェクトの内容だった。
機器が完成して販売された場合、シルバーは利益の一割を報酬として受け取る契約を結んでいる。
成功すれば、オーキド博士も目を剥く報酬になるだろう。
現時点でも、シルバーは正規雇用の研究員よりも多くの給料を受け取っている。
優遇されているのはありがたい。
『お疲れ様。』
「ああ、疲れた。」
入浴を済ませたシルバーは、自室のベッドに倒れ込んだ。
小夜はそのベッドに腰を下ろし、シルバーの前髪を整えた。
「お前に触れられると安心する。」
『良かった。』
シルバーは疲れ切っている。
ポケモンたちは騒がずに静かにしているし、既に寝落ちているポケモンもいる。
テレビは消音になっていたが、オーダイルが電源を落とした。
『今回のお仕事は如何だった?』
「会議がたらたら長い。
実践した方が早いってのに。
進み具合も悪い。」
『それだけ慎重になってるんだろうね。』
デボンコーポレーションにとって、シルバーは大事なお客様だ。
先進医療を知る人間であり、ダイゴの友人だ。
プロジェクトを失敗させる訳にはいかないのだ。
「明日も午前中だけ向こうに顔を出すか迷ってる。」
『大人しく待ってるよ?』
「知ってる。」
シルバーは口角を上げた。
オーキド博士やケンジから聴いたが、小夜は不在のシルバーに対して文句一つ零していないのだという。
シルバーの行動に理解を示しているのだ。
『ダイゴさんには逢った?』
「ああ、挨拶に来てくれた。
来週は山籠りするらしいぜ。」
ダイゴは小夜からプレゼントされたネクタイピンを毎日欠かさずに付けている。
相当なお気に入りっぷりで、山籠りの際も御守りとして持っていくそうだ。
『此処で寝てもいい?』
「ああ、いいぜ。」
小夜は微笑み、シルバーのベッドに潜り込んだ。
季節は秋から冬に移ろうとしていて、掛け布団は毛布だ。
シルバーは横になりながら、小夜と向き合った。
デボンコーポレーションで何があったのか、小夜に沢山話すようにしている。
留守番の小夜が寂しくならないように、二人の距離を遠く感じないように、常に気遣っている。
「また出掛けるか。」
『うん、何処がいい?』
「そうだな…そろそろホウエン地方に行ってみてもいいかもな。
ルネシティにでも行くか。」
『ほんと?
海に潜りたいな。』
サトシもホウエン地方に渡り、新しい仲間と共に旅をしているそうだ。
トウカジムのジムリーダーの娘であるハルカという少女と、その弟であるマサトという少年だ。
お馴染みのタケシも一緒らしい。
一方のカスミは、ハナダジムのジムリーダーとして張り切っている。
この前、小夜はカスミと電話で久方振りに話をした。
シルバーさんと仲良くしてるの?と尋ねられ、勿論だと回答した。
『明日にでもルネに行く?』
「明日はお前の定期検診だ。」
『あ、そっか…。』
月に一度、小夜は遺伝子検査や血液検査を行なっている。
相変わらず何の進展もないが、七年前から続いている大切な検査だ。
シルバーはそっと目を閉じ、小夜の腰を引き寄せた。
「悪い…寝落ちそうだ。」
『うん、しっかり休んでね。』
「ああ…おやすみ。」
『おやすみ。』
小夜はシルバーにおやすみの口付けをした。
シルバーがいない日があるのは寂しい。
カスミが言っていたが、シルバーの年齢で恋人と一緒に住んでいる方が凄いのだという。
シルバーの出勤が全て終わって、ホウエン地方へ旅に出れば、毎日のように傍にいられる。
当たり前のようにその肌に触れられる日々が待っているのだから、少しくらいなら辛抱しよう。
2018.6.22
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