白霊山編:存在-2

わしは運良く岩肌の上にボトッと落下したが、りんと鉤爪の男は流れの速い川に流されてしまった。
上から此方まで降りて来た殺生丸さまが、倒れているわしに言った。

「邪見、死んだふりか。」

温度のない声が威圧的で恐ろしい。
わしは大慌てで起き上がり、殺生丸さまに土下座をした。

「お、お許しください、殺生丸さま。
この邪見、命にかえてもりんを捜し出して――」

気付けば、殺生丸さまは歩き出していた。
殴ったり蹴ったりしないのだろうか。
わしは人頭杖を拾い上げ、殺生丸さまの後を追った。

「殺生丸さま…花怜は…。」

―――あの女なら今頃くたばってるぜ!

あの台詞で殺生丸さまも気付いただろう。
意図的に花怜と引き離されたのだ、と。
あやつらの仲間が花怜を殺しに向かったかもしれない。

「花怜は人間ごときに殺られはせぬ。」

その台詞から、花怜に対する殺生丸さまの信頼が窺い知れた。
そうだ、花怜は強い。
今はりんを優先して救い出し、その次に花怜の元へ行くべきだ。
しかし、りんが流された方角には白霊山とかいう神聖な山がある。

―――近付き過ぎないでください。
―――殺生丸さまでも浄化されてしまいます。

花怜がそう忠告していた。
殺生丸さまでさえ浄化されてしまうのなら、わしはどうなるのだろうか。
花怜はすぐにでも戻って来てくれないだろうか。
こうして花怜を思い起せば起こす程に、わしは日常的に花怜を頼っているのだと痛感した。



2018.10.5




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