直球
───まだ私を見くびっているのか。
あの時、殺生丸さまは怒っていた。
私が愚かだったのだから、当然だと思う。
昨夜に反省しろと指摘されて以来、私は未だに反省している。
あれやこれやと黙考しながら、掌に妖気を込めた。
───愛されている自信を持て。
殺生丸さまが私にくれた言葉を思い出せば、自然と頬が緩む。
膝の上に乗せた薬草に妖気を練り込むと、萎れていた薬草に生気が戻り始めた。
紅い実をつけ始め、可憐な花が咲いた。
りんが拍手をしたし、邪見さまも目を丸くしながら口をぽかんと開けた。
「すごーい!」
「花怜の妖術は何度見ても慣れん…」
薬草として使用出来るくらいに花が咲いたのを確認してから、妖気の放出を止めた。
この薬草は乱獲で数が減り、なかなか手に入らない貴重なものだ。
萎れているのを発見し、本来の力を与えたのだ。
りんは私の妖術を見るのが好きなようで、こうして目を輝かせている。
出掛けている殺生丸さまを待つ私たちは、留守番をしながら再び薬草を探し始めた。
草木の間を歩きながら、私は低い位置から視線を感じた。
「邪見さま?」
「な、何じゃい」
「今日はよく私を見ておられますね」
「な、何でもないわい」
何でもないようには見えないのに。
邪見さまの様子が変になったのは、間違いなくあれがきっかけだ。
───花怜さまも殺生丸さまも遅かったけど、どうかしたの?
───ま、まままさか花怜…もしや殺生丸さまと…。
私があからさまに真っ赤になったりしたから、邪見さまは何かと察した筈だ。
殺生丸さまと肌を重ねるようになったのは随分と前からだ。
邪見さまは今日の今日まで気付かなかったのだろうか。
「花怜、一つ問うても構わんか」
「何でしょう?」
「お、お前は殺生丸さまと肉体関係があるのか!?」
「っ?!」
私は木の根に足を引っ掛け、顔から思い切り転倒した。
あまりに直球な質問に動揺してしまった。
転倒した格好のまま、真っ赤な顔を上げた。
「邪見さま…!
もしりんが訊いていたら…!」
「りんは向こうにおるわい…!」
りんの鼻歌が小さく聞こえる。
私は平常心を取り戻そうとしたけれど、なかなか難しかった。
その場にぺたりと座り込みながら、邪見さまの顔色を窺った。
「逆にお訊ねしますが…邪見さまは殺生丸さまと私の交際には反対ですか?」
「今更何を言っておる」
「答えてください」
「反対などしておらん」
私はぶつけて痛む鼻を摩りながら、安堵した。
邪見さまは人頭杖を抱えながら、堂々と腕を組んだ。
「殺生丸さまがお前を選んだのだ。
わしは認めておる」
「ありがとうございます」
「お前はなんだかんだ強いし、容姿も美し……な、何でもない。
殺生丸さまもお前を頼りにしておられるのだ」
全てお見通しだと言うような口調が、何故か優しく聞こえた。
嬉しくなった私が微笑んでみせると、邪見さまは人頭杖を私にビシッと向けた。
「それより、わしの質問に答えんか!」
「えっ」
「お前は殺生な丸さまと──」
「ちょっと待ってください!
その殺生な丸さまなら真後ろにいらっしゃいます!」
肩をビクッと震わせた邪見さまは、小刻みに震えながら、背後を恐る恐る振り向いた。
殺生丸さまが邪見さまに影を落とし、感情の読み取れない無表情で見下ろしていた。
「…何を話している」
「なななんでもございませぬ…」
殺生丸さまが今度は私の目を見た。
私は顔が熱くなり、目を逸らしてしまった。
邪見さま、その件に関しては口に出さないでください。
2018.9.10
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