もう一人の博士-4

オーキド博士は後から小夜を追い掛けてきたエーフィも一緒に研究所へ招き入れた。
そして大量の本でごった返している自室へと案内した。
決して狭くない筈の部屋だが、部屋を囲うようにして設置されている本棚や、幾つもある机の上に大量に積まれている分厚い本や資料のせいで圧迫感があった。
小夜は瞳を丸くしてその部屋を眺めた。

「少し散らかっておるが、入りなさい。」

『はい。』

オーキド博士は丸椅子を出して座るように催促し、小夜は大人しくそれに座った。
オーキド博士は散らかり放題のテーブルの前に立ち、小夜を見つめた。
紫を纏うこの幼い少女は、本当に愛らしい顔立ちをしている。
そう思ったのを頭の隅に追いやり、慎重に尋ねた。

「君はポケモンが人間に化けているのかな?」

『いいえ。』

「それなら人間、とでも?」

『いいえ……あ。』

小夜の腕の中にいたタツベイがもぞもぞと動いたかと思うと、薄っすらと目を開いた。
タツベイは真っ先に視界に入ってきた小夜の元気そうな顔を見て、助かったのだと実感した。
小夜の表情は途端に明るくなった。

『タツベイ、目を覚ましたのね!』

「ちょっと、君…。」

理解に苦しむ回答をされ、オーキド博士がそれは如何いう意味なのかと尋ねようとした。
だが小夜の腕に抱かれていたタツベイが意識を取り戻し、小夜はオーキド博士を忘れたかのようにタツベイを見た。

“此処は何処…?”

『此処はマサラタウンの研究所。

もう大丈夫よ。』

“ロケット団は逃げたのか?”

タツベイはそう問い掛けながらも、身体に受けた筈の毒が残っていないのを感じていた。

『逃げた訳じゃないの。

事情があるから、後で説明するね。』

「もしや、ポケモンと会話しておるのか?」

『はい、話せます。』

今後はオーキド博士が目を丸くした。
突如現れたかと思うと念力でオニスズメを追い払い、そしてポケモンと会話してみせる幼子。
一体何者なのか、大変興味深かった。

「君の御両親は?」

『いません。』

「如何して此処へ?」

『博士、私が今から話す事を信じて欲しいんです。』

オーキド博士は小夜の真剣な瞳を見て息を呑んだ。
小夜は説明を始めた、
自分がロケット団の資金によって造られた生命体である事。
ポケモンと人間の混血である事。
包み隠さず、全て話した。
小夜はオーキド博士の目の前で能力の片鱗を見せる事によって、これらの事実を信じて貰おうと考えたのだ。
能力を晒すのは極力控えろとバショウから忠告されたばかりだが、もし信じて貰えずに追い払われるようなら、小夜に関する記憶をオーキド博士から削除すればいい。
そう考えて此処に侵入したのだった。
小夜が全て話し切った時のオーキド博士の言葉は、小夜にとって一生忘れられないだろう。

「わしはオーキド・ユキナリ。

これから世話になる者の名前くらいは覚えておくんじゃ。」

オーキド博士はすぐに小夜の遺伝子検査を行った。
泊まり込みで働く研究員に気付かれないように、単独で行った。
小夜の口内を綿棒で軽く擦って細胞を収集し、研究所にある最新技術を駆使した装置によって小夜のDNAを分析した。
それがポケモンでも人間でもない事から、オーキド博士は小夜の話を信じたのであった。
それにポケモンと話せるとなると、研究は今まで以上に進み、沢山の論文が執筆出来るだろう。
オーキド博士は小夜に研究の手伝いとポケモンの世話を条件とし、小夜を匿うと約束したのだった。




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