気付いた想い-3

深い森の奥に位置するロケット団本部の一拠点。
ミュウツーは其処にいた。
身体には依然として鎧が装着されており、その鎧からは複数の管が伸びていた。
初めて此処へ連れてこられた時からサカキに従順に行動し、闘ってきた。
何故この人間に従わなければならないのか、ミュウツーには分からなかった。

私は何の為にこの人間に従っている?


―――人間の道具になっちゃ駄目。

―――君たちは生きなければいけない。


ただひたすらサカキという男に従う中で、頻繁に思い出す幼い少女の声。
ミュウツーはその少女の姿を思い出すまでに、その記憶を掘り起こしていた。
腰まである紫の髪、同じ色をした透き通った瞳。
あの少女は誰だ?


―――私は、……。


重要な名前の部分の記憶が霧がかかったように霞んだままだ。

「お前は誰だ。」

何故幼い頃の私の記憶にお前が映り込んでいる?
するとサカキがミュウツーを見下すように二階のフェンスから姿を現した。

「お前の中に一人の人間の記憶があるようだな。」

「……お前はこの人間が誰なのかを知っているのか。」

「正しく言うと、その女は人間ではない。」

その女、と呼ぶサカキにミュウツーの心の底にある怒りが僅かに揺れた。
何故お前がそのような呼び方をするのだ。

「お前と共に造られた人造生命体。

あの女の身体には人間とポケモンの遺伝子が組み込まれている。

お前と同じミュウの遺伝子だ。」

「…。」


―――私は此処に閉じ込められてる。


お前も今の私と同様に、人間の手によって何処かに幽閉されていたのか。
人造生命体であるが為に。

「あの女はお前より後に生み出されたのにも関わらず、先に目覚めた生命体だ。

同じミュウの遺伝子を持ち合わせているからと言って、あの女がお前の妹という表現は相応ではない。

もしお前とあの女が家族という肩書で表現されるなら、私たち人間は同じ遺伝子を持ち合わせているが為に、全員が家族になってしまうからだ。」

サカキという男はよく喋る、とミュウツーは思う。
比較的にミュウツーが寡黙である事が原因かもしれない。

「お前はポケモンだ。

ポケモンは人間の為に使われ、人間の為に生きる。

そしてあの女も半分はポケモンだ。

私たち人間の為に生きる義務がある。」

「お前の為に闘えというのか。

私たちに人間の為に生きろというのか。」

「お前もあの女も共々、人間に造られたポケモンだ。

他に何の価値がある?」

あの女、あの女と呼ぶな。
私の為に何かを訴えるあの少女を、そのような呼び方をするな。

「私は誰だ。

私は何の為に生きている。」

ミュウツーに装着されている鎧を繋いでいた複数の管が、電気の音を発して千切れ始める。
それを見たサカキは狼狽した。

「何をする?!」

ミュウツーは宙に浮遊し、鎧を繋いでいた管を怒りのままに消滅させた。

「私は人間に造られた。

だが人間ではない。

造られたポケモンの私はポケモンですらない!!」

「くっ…!」

危機を感じたサカキはミュウツーに背を向けて走り出す。
その数秒後、ミュウツーの力によってその施設は脆くも粉々になり、煙を上げて爆発した。
ミュウツーは高速で空に向かって一直線に飛行し、その勢いによって身体の鎧が徐々に崩れていった。


―――私は、小夜。


私は思い出した。
お前の名は小夜。
だが私と同じ境遇である人造生命体である事は、あのサカキという男によって初めて耳にした。
小夜は今生きているのだろうか。
生きているのならば、何処で何をしているのだろうか。

ミュウツーがロケット団の手から逃れた事は、小夜にとって一つの転機となる。



2013.2.8




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