気付いた想い-2

シルバーが氷を包んだハンドタオルを小夜の額に乗せてやると、小夜は弱々しく微笑んだ。

『ありがとう。』

「…。」

小夜はこんな時まで笑っている。
シルバーが小夜の頬に手の甲で触れてみると、かなり熱い。

『…ポケモンに影響を与える何かが飛んでる。』

「影響を与える何か?」

『何なのかは…分からない。』

小夜は敏感な事が仇となり、飛来する何かに対して身体が過剰に反応してしまっていた。
シルバーがエーフィたちを見るも、体調が悪そうなポケモンは一匹もいない。
ボーマンダが小夜の顔を覗き込み、小夜はその顔を撫でてやる。

『心配しないで。』

バクフーンは小夜に布団を掛けて尋ねた。

“何か俺たちに出来る事はある?”

『大丈夫。』

小夜はバクフーンの頭を撫でると紫の瞳を閉じた。
エーフィは小夜の小型バッグを漁り、其処からオレンの実を見つけ出した。
体力回復に使用されるオレンの実を摂取すれば、小夜の気休めにはなるだろう。
だがオレンの実は一つしかなく、これでは足りない。
エーフィが掛け声を出すと、ポケモンたちがエーフィの周りに集まった。
そしてエーフィが何かを説明すると、エーフィは念力でボーマンダをボールに戻し、それをアリゲイツが阿吽の呼吸で受け取った。
ポケモンたちは続々と扉の外へと駆けていった。
ボーマンダをボールに入れたのは彼がこの扉から出られる大きさではないからだ。
最後に残ったバクフーンはシルバーにオレンの実を渡した。

「オレンの実を探しに行くんだな。」

バクフーンは頷き、廊下へ出て扉を閉めると、皆の後を追った。

「お前は愛されているな。」

苦しそうに息をする小夜は、固く瞳を瞑って身体の異変に堪えている。
シルバーが小夜のベッドへ腰掛け、ベッドが沈むのを感じた小夜はゆっくりと瞳を開いた。

「小夜、食べろ。」

『……オレンの実?』

エーフィは体力を回復させるオレンの実をポケモンたちと共に探しに出掛けた。
ポケモンの血を半分受け継ぐ小夜ならば回復する。

『美味しくないから嫌い。

渋い味がするんだもの…。』

味覚が人間である小夜にとって、ポケモン回復用の木の実は美味しいものではなかった。

「我慢しろ、文句を言うな。」

『デザートが食べたい…。』

「……後で買ってきてやるから今はこれを食べろ。」

やはりこの少年はツンデレという分類に入ると内心思った小夜だが、シルバーにそう言っても殴るぞと一蹴されると思って口に出さなかった。
それに今は冗談を言う気力がない。
小夜は目先に差し出されたオレンの実を震える手で掴み、一口噛もうと試みるがすぐに止めた。

『硬い。』

「チッ。」

シルバーは小夜の手からオレンの実を引っ手繰り、そのまま自分の口に放り込んだ。

『え。』

シルバーが噛もうとするも、それは確かに硬かった。
顎に思い切り力を加えてがりっといい音がすると、同時に渋い味が口内に広がった。
確かに美味しいものではなく、シルバーは眉間に深く皺を寄せた。

『ほら、美味しくないでしょう?』

シルバーは無言で立ち上がり、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して少量を口に含んだ。

『味見なんて……っんむ?!』

味見なんてするからよ、という台詞は途中で途切れた。
突然シルバーが小夜の唇を塞いだからだ。
小夜は突然のシルバーの行動に紫の瞳を大きく見開いた。
言葉を紡いでいる途中だった為に容易にシルバーの舌が口内へ入り込み、オレンの実とミネラルウォーターが流し込まれる。
小夜の口の端から僅かにそれが漏れて頬を伝った。

「はっ…いてぇだろ、噛むな。」

『…っ、いきなりこんな事するからでしょう…!』

小夜は口元をごしごしと擦った。

「言い返す元気はあるようだな。」

シルバーの口内に鉄の味が広がった。
口移しに驚いた小夜がシルバーの舌を噛んでしまったのだ。

『ごめん……痛かった?』

「別に。」

シルバーは傍にあったティッシュを数枚取ると、其処へ血をペッと吐いてごみ箱へ放り、再度ミネラルウォーターを飲んだ。

『私も水、欲しい。』

「誘ってんのか?」

『違う!』


―――誘っていますか?


バショウにも言われた台詞だった。

バショウごめん、私シルバーとキスしちゃった。

銀髪の優男の顔が脳裏に浮かび、小夜は罪悪感で一杯になった。
瞳にじわりと涙が滲む。

「わ、悪かった!

だから泣くな!」

まさか此処まで嫌がられるとは、シルバーはかなりのショックを受けた。
小夜の瞳の横を伝う涙を、多少粗野にだが指で拭ってやる。

「悪かった…。」

『…シルバー?』

目を細めて覗き込んでくるシルバーを、小夜は濡れた瞳で見上げた。

「俺は…。」

涙を流していても美しい小夜。
シルバーはまだ赤いその頬にそっと手を添えた。
小夜の微笑みを見て顔が火照る理由。
意識がない小夜を自分からおぶると言った理由。
小夜が倒れてしまい、何とか看病しようと躍起になった理由。
自分の中に押し殺していた気持ちに、今やっと正直になれる気がする。

「俺は、お前が…。」


―――ガチャッ


タイミングを見計らっていたかのように扉が開き、其処に現れたのはアリゲイツだった。
この状況を見たアリゲイツは身体が硬直して立ち止まり、顔を真っ赤にした。
シルバーは弾けるようにして咄嗟にベッドから離れた。
その瞬間、アリゲイツの後方から念力で解錠したエーフィに続いてポケモンたちが勢いよくなだれ込み、アリゲイツは踏み台にされた。
ポケモンたちは様々な木の実を持っていた。
オレンの実を腕一杯に持っていたバクフーンを見て、渋い味を思い出した小夜は青い顔をした。

「…少し出掛ける。」

シルバーは急ぐかのように大股で部屋から去った。
それを見たエーフィは未だに青い顔をしている小夜に尋ねた。

“あれ、シルバーは如何したの?”

『うん、ちょっとね。』

エーフィは二人に何かあったんだと直感した。
小夜が回復したらみっちり話を訊いてやろうと密かに企んだ。




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