気付いた想い

小夜が正体を白状した翌日。
シルバーは普段通りつんつんしており、特に変わった様子はなかった。
小夜が情報を訊き出せなかった事に対してエーフィは怒らず、寧ろエーフィの予想通りと言っても良かった。
小夜と行動を共にしてから、シルバーは徐々に変化してきている。
エーフィはこのままシルバーの記憶削除をせず、更には今後ずっと仲間でいてもいいのではないかとまで思うようになっていた。
真昼間に行動出来ない小夜の代わりに食糧を調達してくれるし、あっちこっち勝手に行ってしまいそうな小夜の監視役にもなる。
それを主人である小夜に提案してみるも、危険だから駄目だと相変わらず言い張るのだった。

一方のシルバーは如何しても記憶の削除をして欲しくない自分がいる事に疑問を感じていた。
始めは自分の所有物である記憶を削除されるなど心外だという気持ちで否定していたが、今は小夜自身の事を忘れたくないが為に否定している。
シルバーは心の中の異変と葛藤していた。

太陽が今にも顔を隠しそうな夕暮れ時。
シルバーは自分が腰掛けているベッドで心地良さそうに眠るアリゲイツへと視線を送った。
修行で疲れて眠ってしまっているアリゲイツは、今朝からシルバーのベッドで眠るようになった。
他のポケモンたちもぐっすり眠っており、深夜からの旅に備えていた。
昨日シルバーがベッドに押し付けた、というより押し倒してしまった小夜はカーテンをそっと開けて外を覗いている。
シルバーは今思えば恥ずかしい事をしてしまったと後悔した。
当の本人である小夜は全く気にしていないようだが、此方からすれば大胆な行動だった。
シルバーはベッドから立ち上がると、小夜の背後から腕を伸ばしてカーテンをシャッと閉めた。
小夜は驚いて振り返るとシルバーがすぐ目の前におり、自分より身長が数cm高いシルバーを見上げた。

『シルバー?』

「余り外を覗くな。」

昨日の夜に小夜から人間とポケモンの遺伝子を受け継いだ人造生命体であると告白されてから、シルバーは小夜の行動に対して過敏に反応するようになっていた。

『何か…何だろう。』

「如何した?」

『うーん。』

小夜は何かの気配を感じていた。
瞳を閉じて気配を詳しく感知しようと試みるが、対象との距離が遠すぎる為か、それとも感じた事のない気配の為か、気配の正体がよく分からない。

「少し顔が赤くないか?」

『え?』

そう言われてみれば、先程から少し身体が熱い気がする。

『別に平気よ。

少し暑いのかも。』

「嘘つけ。」

シルバーは小夜の肩を掴む。
壁に押し付けられる形になっても、小夜は微塵も取り乱したりはしない。

「俺がすぐ背後に来るまで気付かなかったな。

気配に敏感なあのお前が、だ。

明らかに変だぜ。」

『よくお気付きで。』

この少年は本当に鋭い。
だが壁に押し付けられているこの状況は何だろう。
彼なりの心配表現なのだろうか。
エーフィか誰かが目を覚ましてこの状況を突っ込んではくれないだろうか。

「今日も休んでいくか?」

『!』

初めて逢った時よりも格段に優しくなったシルバーを、小夜は瞳を丸くして見つめた。

「何だよ。」

『シルバーも変よ、熱でもある?』

「断じてない。」

まさか此方の心配をされるとは。
シルバーはお人好しの小夜にほとほと呆れた。
シルバーは五日間も意識を失っていた小夜がそう簡単に回復するとは思っていなかった。
紫の瞳で見上げてくる小夜の顔をじっと見つめる。
ふと小夜が瞳を閉じたかと思うと、シルバーの肩に頭を押し付けた。

「っ!」

顔が火照るのを感じたシルバーは小夜を押し返そうとするが、小夜の身体が重力に従って脱力した為、その華奢な身体に腕を回して咄嗟に支えた。

「おい、小夜!」

『ご、め…。』

シルバーは床へ崩れ落ちそうな小夜の膝裏に腕を回して抱き上げると、小夜のベッドへとゆっくり下ろした。
エーフィが異変を感じて目を覚ますと、寝起きとは思えない程の俊敏さで小夜のベッドへと飛び乗った。

「急に倒れた。」

シルバーの説明にエーフィは顔を顰め、顔が赤くなっている小夜の名前を呼んだ。
小夜はうっすらと瞳を開けた。
身体が熱い。
全身が震えて上手く力が入らない。

『…何だか身体が変なの。

エーフィは大丈夫?』

エーフィには特に異常はなく、健康そのものだ。
エーフィが前脚で小夜の額に触れる。

“熱いよ、熱だ!”

エーフィはベッドから飛び降りると、冷蔵庫の冷凍室を念力で開けた。
開けたはいいが、冷凍室に入っている氷を何で包めばいいのだろう?

「俺のリュックにビニール袋がある。」

シルバーは自分のリュックからビニール袋を引っ張り出し、冷凍庫の氷を素手で掴んでその中へ入れると口を堅く縛った。
エーフィは必死になっているその姿を見て、やっぱりシルバーは小夜の事が好きなんだと確信した。

「このまま額に置くのは冷たいな…。」

ハンドタオルで包もうと思ったシルバーが洗面所へ向かおうとすると、何時の間にか目を覚ましていたアリゲイツが目的の物を持ってシルバーの足元で差し出していた。
シルバーはしゃがんでそれを受け取った。

「悪いな。」

気が利くアリゲイツに礼を言って小夜のベッドへと向かったシルバーに、エーフィは目を瞬かせた。
あのシルバーがポケモンに礼を言うとは。
シルバーの言動は明らかに変化している。
エーフィはアリゲイツと顔を合わせた。

“御主人は小夜想いだ。”

嬉しそうに言うアリゲイツに、エーフィは微笑んで頷いた。




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