繋がりの洞窟-4

泉に放り投げられたズバットは泉からやっと姿を現すと、目を回しているようで不安定に浮遊していた。

「今ならいける。」

シルバーは腰から空のモンスターボールを取り出すと、そのズバットに向かって投じた。
見事に命中したボールはズバットを中へと吸収し、シルバーの前へ落下した。
ボールは中心のボタンを赤く光らせたまま数回揺れ動いたが、光がすぐに消え、静止した。
シルバーが三匹目の手持ちポケモンをゲットした瞬間だった。

『おめでとう。』

「ああ。」

シルバーはそのボールを拾い上げ、再度ワニノコを見つめた。
視線を絡め合っていたのも束の間、ワニノコは意識を失ってその場に倒れてしまった。

『ワニノコ!』

ワニノコの名前を呼んだのは主人のシルバーではなく小夜だった。
小夜はワニノコに駆け寄って意識のない小さな身体を抱き上げた。
癒しの波導を使用するまでもなく、この程度の傷ならモンスターボールの中ですぐに治るだろう。
ワニノコの主人であるシルバーはその場から動かずにそれを見つめていた。
何故ポケモンに優しくしなければならないのか、理解出来そうでまだ出来なかった。
優しくしようとすると戸惑ってしまい、身体が動作を停止する。
小夜はワニノコを抱いたまま立ち上がってシルバーに近寄った。

『ほら、抱いてあげて。

貴方を助けたのよ?』

「……。」

シルバーは傷だらけのワニノコを見つめた。
ポケモンを腕に抱くなど、十五年生きてきて経験した事がない。
ポケモンに触れるといえば、殴る蹴る程度しかないのだ。
シルバーは悩んだまま動かずにいたが、モンスターボールを手に取ってその中へワニノコを戻してしまった。
小夜は哀しい瞳をしてシルバーを見つめた。

『シルバー……。』

「さっさと先へ行くぜ。

ボーマンダを出せ。」

『…。』

幾ら素直ではないからといって、何の言葉も掛けないままボールに戻してしまうとは。
シルバーも分かっている筈だ。
助けてくれたワニノコに感謝しなければならないと。
何がシルバーを冷たくさせているのだろうか。
小夜はそっとシルバーの首に腕を回した。

「…?!」

これは抱き締められているのだろうか。
シルバーは目を丸くして硬直した。
頬に小夜の艶やかな髪が触れ、優しい香りが鼻腔をくすぐった。
小夜はシルバーを抱き締めながら瞳を閉じた。
シルバーが愛を受ける事に馴れていない為、愛を伝える事が出来ないのかもしれない。
ならば愛を伝えてあげればいい。
だが先程のシルバーの言動が実に気に食わない小夜は、突然シルバーの襟首を掴むと、持ち前の運動神経で泉に放り投げた。

「うわっ!」


―――ドボーン!!


シルバーはされるがままに泉に突っ込んだ。
不意打ちで投げ込まれたシルバーは思った以上に深い泉から顔を出し、小夜を強く睨んだ。

「てめぇ何しやがる!!」

『ばーか。』

「この野郎…っ!」

小夜はモンスターボールからボーマンダを繰り出すと、その背に軽々と飛び乗って泉の向こうまで飛んでいった。

『此処まで泳いできなさいよ。

それともこの迷宮の中を一人で帰る?』

「くそ…!」

何なんだよこの女!
何を考えてるのか全く分からねぇ!

シルバーは悔しさで唇を思い切り噛んだが、仕方なく小夜の元まで泳ぐのであった。



2013.2.5
2013.3.31 改




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