繋がりの洞窟-2

小夜は洞窟の入り口まで高速で飛行してくれたボーマンダを撫で、木の実を与えてからモンスターボールへ戻した。
二人は洞窟の中へ入ると、ランプの灯を頼りにしながら足元に注意して進んだ。
雫が滴る音が迷宮の洞窟の中で静かに反響していた。

此処ならロケット団の目も届かないだろう。
先程の監視カメラは、小夜の居場所を把握していたからロケット団が放ったものだろうか。
小夜はずっと考えていた。
オーキド研究所を旅立ってからこの短期間で、居場所が気付かれたとは考えにくい。
監視カメラの気配以前に、嫌な視線を感じた訳でもなく、敵がいるような気配も感じなかった。
あの監視カメラは、ロケット団が無条件にこのジョウト地方へ分散させたのだろう、
深夜に移動する何者かの気配を感知し、此方へ向かってきたと考えるのが妥当だ。
監視カメラに身を撮影されていない為、シルバーが小夜と共に行動しているとは気付かれていない筈だ。

『このままフスベシティまで出ましょう。』

順番的にヨシノシティの次はキキョウシティだが、真っ先にキキョウシティへ向かうのは危険だ。
かなり距離があるが、小夜はフスベシティへ向かう決断をした。

「ついてくる側のお前が勝手に決めるな。」

『じゃあ何処へ行くの?』

「強いポケモンがいる場所だ。」

『今の手持ちポケモンに相応する場所を選んでよね。』

まだシルバーのポケモンはレベルが低い。
無理に戦闘させようとしても、此方が倒されるようなら経験値は上がらない。

『ん?』

小夜がふと立ち止まったが、それを気にせずシルバーは歩き続ける。
小夜に何時までも振り回されてはたまらないのだ。

『シルバー、前。』

「?」


―――バサバサバサ!


「うわ!」

前から飛行してきたズバットが、シルバーの顔面に体当たりした。
小夜は肩を竦めた。
私は忠告したんだから、と小さく溢した。

「いてぇじゃねぇか!」

シルバーは腰のモンスターボールを手に取って放ち、ワニノコを繰り出した。
小夜はそれをシルバーの数歩分だけ後方で静かに見守る。
ズバットの体当たりのせいで額が僅かに赤いシルバーは、不機嫌全開で命令した。

「あのズバットに水鉄砲!」

ワニノコが口内から大量の水を放出するが、暗い洞窟の中で飛び回るズバットに攻撃を命中させるのは至難の業だった。
ランプの灯には限界があり、辺り一面を明るくするのは難しい。
ズバットは灯の明りの届く距離から抜け出し、ワニノコは攻撃が出来なくなった。
小夜は優れた視力と気配感知能力を生かし、ズバットを探った。

『シルバー、来るよ!』

「!」

小夜の声を合図に、耳を塞ぎたくなるような軋んだ高音が鳴り響いた。
その音を聴いた小夜は顔を顰めた。

『っ。』

「超音波か…!」

耳を塞ぐワニノコにズバットは噛み付き、そのまま吸血した。
ワニノコは痛みを堪えた。

「怯むな、引っ掻く攻撃だ!」

超音波が鳴り止み、小夜はほっとした。
ワニノコはズバットを引っ掻いた。
その攻撃が命中したズバットは声にならない音を口から出すと、元来た道へと逃げていった。

『ワニノコの経験値が上がったね。』

「フン。」

シルバーはワニノコをボールに戻し、ランプを持って後方に立っている小夜を振り返った。
小夜は目付きの鋭いシルバーを見つめ返した。

「…。」

『?』

「…。」

『大丈夫よ、平気だから。

心配してくれてありがとう。』

「な…!

この俺が心配なんて、断じてない!」

シルバーは頬を染めたかと思うと、ぷいっと前を向き、つんつんと歩き出した。
小夜は素直ではないシルバーの後を追うと、その隣を歩いた。
隣を歩く小夜に、シルバーは一瞬だけ視線を送った。
小夜の半分はポケモンだ。
先程の超音波は人間には聴こえないような音波も発する為、シルバーにはダメージがなくとも小夜は違う。
超音波を放たれ、小さな呻き声を発した小夜の事が気になった。
つい振り返ってしまったのだ。


暫く迷路のような道を進みながら、シルバーは本当にこの道で正解なのかと疑問になってきた。
分かれ道に遭遇しても、小夜は迷いもせずに道を選択して歩を進める。

「おい、何故道が此方だと分かるんだ。」

『そっちに行くと行き止まりだから。』

「質問に答えろ。」

的確な回答ように聴こえるが、如何もずれている。
また勘だとかいう回答が返ってきそうだし、もう訊ねるのをやめてしまおうか。

『待って、シルバー。』

シルバーは反射的に立ち止まった。

『この音は…。』

「音?」

耳を澄ませてみると、乾いた羽音が多数聴こえてきた。
小夜が眉間に皺を寄せているのを見ると、これは良い兆候ではない事が窺える。

『駄目ね、逃げられない。』

「何故今からそう言えるんだよ。」

『前と後ろから来るから。』

「は?!」

急激に大きくなる羽音の正体は大量のズバットだった。
小夜が言った通り、二人を挟むようにして現れた。
先が見えなくなる程の凄まじい数だ。
群れに迫られた二人は後方へ徐々に下がると、背中に岩壁が当たって逃げ場を失った。
小夜は威嚇してくる群れの中に、先程のズバットを見つけた。

『怒って仲間を呼んだのね。』

「如何するんだよ。」

シルバーはこんな状況でも冷静でいられる自分に内心驚いていた。
小夜なら追い払う手段を幾らでも持っているだろう、と勝手に憶測していたからだ。
それに小夜の表情から焦りは全く見受けられない。

『攻撃すれば、更に数は増えるだけね。』

「なら如何す――っ?!」

シルバーが最後まで台詞を言う前に、小夜から見えない風圧がほとばしった。
シルバーは目を固く瞑り、思わず腕で顔を覆った。
身体中を悪寒が駆け巡ったかと思うと、すぐに風圧は収まった。
シルバーが腕からゆっくりと顔を上げると、ズバットの群れが高速で逃げ去ってゆくのが見えた。




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