幼馴染み

小夜は研究所の四階にある自室へ戻ってベッドに寝転び、ネンドールから受け取った手紙を無表情で眺めていた。
ボーマンダでも出入り可能な大きさに改装してある窓を開け放ち、部屋の空気を換気している。
小夜の部屋の窓は研究所の庭側に設置されており、マサラタウンの街並みは見えない。
だがマサラタウンの住人から見えないお陰で、此処ではカーテンを全開にしたりと自由に行動が出来た。
現在は昼寝の時間で、エーフィ用の小さなベッドにはその主が丸くなって昼寝を楽しんでいる。
一方、真っ白でふわふわな絨毯の上ではボーマンダが大きな身体を横たえて寛いでいる。
小夜はこの部屋が好きだった。
以前小夜が暮らしていたニューアイランドの研究所の自室とは違って、この部屋は自分好みの色で彩っている。
だが小夜はシンプルな白が好きで、絨毯や壁紙、そしてベッドはあの研究所と同様の白だった。
フローリングの床と机と棚は落ち着きのある薄茶色だ。
巨大な棚はポケモンに関する本や資料で埋め尽くされていたが、オーキド博士とは違って綺麗に整頓されている。
手紙を見つめたまま無言の小夜に、ボーマンダが話し掛けた。

“小夜。”

『ん、如何したの?』

小夜はベッドから降りて机上に手紙を置くと、其処に置いてあったポケモン用のブラシを手に取った。
ボーマンダは目に不安の色を見せていた。

“手紙で指定された場所に行くのか?”

『行くよ。』

小夜はボーマンダの大きな身体をブラシで擦ってやる。
その気持ち良さにボーマンダが目を閉じると、更に眠気が襲ってきた。

『大丈夫よ。

私だって六年間何もしてなかった訳じゃない。』

“それは分かって、るよ…。”

小夜がボーマンダの顎を優しく掻いてやると、ボーマンダはご円満の表情だ。
小夜が庭で就寝前に行っていた極秘の訓練によって様々な技を習得した事は、傍にいたボーマンダとエーフィがよく知っていた。
高い命中率を誇る波導弾を打てるようになったのは、小夜の強みになった筈だ。
小夜が二匹の攻撃を結界で跳ね返す練習をしたお陰で、二匹の能力も格段に躍進した。
小夜はボーマンダが本格的な眠りに入ったのを確認すると、窓の外を眺めた。
淡い桜色のカーテンが爽やかな風に揺られている。
もうすぐ夏だし、カーテンの色を向日葵をイメージした色に変えようかと気ままに考えた。
ボーマンダを撫でながら庭の一部を彩る桜の木を眺めていると、外から馴染みのある気配がした。

『ん、この気配は。』

立ち上がってガラス窓を開け、広いベランダから下を覗き込む。
シゲルの幼馴染みである黒髪の少年、サトシが庭から小夜を見上げていた。
サトシは小夜の顔を見ると、満面の笑みを浮かべて手を大きく振った。
サトシが此処にいるという事は、オーキド博士に正門から入れて貰ったという事だ。
この研究所は正門以外からは中へ入れないようになっている。
庭は高いフェンスで囲まれ、小夜が以前阻まれた事のある侵入防止の電圧が掛けられている。
その侵入防止システムは以前とは違い、小夜が改良の手を加えている。
人間かポケモンかを感知する機能は元からプログラムされていたが、普段電圧の対象とならないポケモンでも何らかの装置が装着されていれば侵入出来ないように改造されている。
更にはポケモンの技を防御する強力なシールドを張れるようになった。
全て万が一を考えての事だった。
つまり誰かに入れて貰う以外にサトシが庭を訪れる手段はない。

敢えて小夜に向かって大声で声を掛けないサトシに小夜は感謝した。
オーキド研究所が安全とはいえ、サトシは慎重になっているのだ。
小夜はベランダに置いてあったスニーカーを履いてフェンスに脚を掛ける。
サトシ以外に誰からも見られていない事を確認すると、其処から柔らかく飛び降りた。
サトシはもう見慣れているその光景に驚きもしない。
目の前で華麗に着地した小夜に、サトシはわくわくしながら言った。

「明日が待ちきれなくてさ。

またポケモンの事、教えてくれよ!」

『勿論いいよ。』

シゲルとサトシが幼馴染みである一方で、小夜とサトシも同様に幼馴染みだ。
サトシはシゲルと同じくらいにオーキド博士が可愛がっている少年であり、小夜の能力を知っている少ない人間の一人だ。
勿論シゲル同様、人造生命体である事やロケット団の標的であるとは伝えられておらず、小夜の存在を口外しないようオーキド博士から釘を刺されている。
小夜がサトシに能力が知られてしまったのは、庭でポケモンに追いかけられているサトシとシゲルを小夜が念力によって助けたのがきっかけだった。




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