保護者的立場

雅が生きていて良かった。
心からそう思った。

角都が雅と出逢ってから二年経つが、色濃い二年だったように思う。
暁が雅と手を組んだばかりの当初、角都は雅を金儲けの為の便利な手駒になると思っていた。
もし裏切れば、超高額の賞金首である雅を殺して換金してやろうと考えていた。
悲劇の一族の生き残りである雅は優秀で、賞金首狩りに失敗する心配もなかった。
賞金首の遺体を受け取る為、転々とする待ち合わせ場所で、定期的に顔を合わせた。
冷凍した賞金首を巻物に封印し、渡してきた雅。
時には泊まり先まで案内してくれたし、酒豪の角都にお酌をしてくれた。
別れ際には優しい口調で見送ってくれた。

───お気を付けて。

雪女と呼ばれているとは思えない温かみのある笑顔に、癒しを感じるようになったのはいつからだろうか。
雅から慕われているのも実感している。
犯罪組織という闇に身を置く自分にとって、雅は光だった。
とても、とても温かな光だ。

そんな雅に男が出来た。
しかも、相手はよりによって同じ組織のメンバーであるコイツだ。

「暫く一緒にいられるとは思ってなかったぞ!うん!」

角都が芸術コンビに与えられた次の任務の話をすると、デイダラは喜びを弾けさせた。
大蛇丸を殺したい、とペインに願い出るのをすっかり忘れてしまっている。
その任務は、とある名の知れた大名の城の壊滅。
その大名が雅のターゲットだったのだ。
ちなみに、低額ではあるが賞金首だ。
芸術コンビと雅の三人は、合同で任務を遂行する事になり、暫く行動を共にする。
サソリは頭が重く感じた。
デイダラを無傷で半殺しにした程の雅の実力は申し分ないが、問題はデイダラだ。
デイダラが雅との行動に浮き足立ち、任務に支障が出ないだろうか。
先が思いやられる。

「嘘だ…雅ちゃんがデイダラのヤローなんてよォ…」

飛段は地面に両手をつきながら、ガックリと項垂れている。
二年にも渡った恋が、終わりを迎えたのだ。
サソリはこの状況が面倒臭くなり、ヒルコ内で武器のメンテナンスを始めてしまった。
ヒルコの奥からカチャカチャと不思議な音が聞こえ始めた。

「飛段さん、大丈夫ですか?」

雅は飛段の前で両膝をつくと、心配そうにその様子を伺った。
飛段が俊敏に顔を上げたかと思うと、雅の腰回りに両腕をガバッと回した。
その勢いで雅は背中から転倒しそうになったが、座り込んで耐えた。

「わ…っ」
「雅ちゃん今なら遅くねェ!!
オレに乗り換えてくれ!!」

膝に顔を埋める飛段に困惑した雅は、デイダラと角都から猛烈な殺気を感じた。
デイダラは粘土袋に手を突っ込もうかと思ったが、雅から飛段を引き剥がす方が先だ。
飛段は雅の膝に顔を埋めたまま嘆いた。

「デイダラのヤローが雅ちゃんを二年も殺したくて仕方なかった間に、オレはお前がずっと好きだったんだぜ?!」
「と、とりあえず離してください」
「付き合ってくれって何回も言ったじゃねーか!」

毎度このハイテンションで好きだ付き合ってくれと伝えていれば、まるで冗談のように聞こえる。
しかし、雅は飛段の気持ちが本物だと分かっていた。
デイダラの事が好きだという気持ちを、飛段にも真っ向から伝えなければ。
雅がこの状況に悩んでいると、飛段の首根っこが角都の伸びた腕に掴まれ、見事に引き剥がされた。
飛段は地面にごろりと転がると、不貞腐れながら胡座をかいた。
すると、デイダラの声がした。

「おい、雅!」

不機嫌なデイダラは雅に駆け寄ると、手を差し出した。
その手を取った雅を、強引に引っ張った。
バランスを崩しそうになりながら立ち上がった雅の両肩を強く掴んで、苛立ちを全開にした。

「簡単に抱き着かれてんじゃねェよ!
振り払えばいいだろ!」

雅の性格を考えれば、飛段を振り払うなど出来ないと分かっているのに。
それでも、雅は自分の女だ。
デイダラは嫉妬に身を任せていた。

「……ごめんなさい」

雅が俯くと、その両肩が不意に解放された。
角都の伸びた腕がデイダラの首根っこを掴み、雅から引き剥がしたのだ。
飛段の隣に転がされたデイダラは、飛段から馬鹿にしたように笑われた。
苛立ったデイダラは根気強く立ち上がると、雅の元へと戻った。

「…オイラが悪かった、うん」
「…いえ」

雅はデイダラと視線を合わせなかった。
角都と次の待ち合わせ日時を相談するべく、デイダラに背を向けようとすると、デイダラに片手を掴まれた。
あっという間に抱き締められて、頬が熱くなった。

「っ、離してください。
皆さんが見ていますから」

雅はデイダラの胸板を弱々しく押した。
デイダラはムッとすると、雅を素早く横抱きにした。

「えっ、デイダラ?」
「ちょっと待たされてくれよ、旦那たち!」

不満げにそう言い放ったデイダラは、雅を連れてその場から走り去った。
その様子を見送った角都は、浅い溜息をついた。
武器のメンテナンスをしていたサソリは、角都にククッと笑った。

「お前は雅に関しては苦労性だな」
「お前こそ、デイダラの扱いは大変だろう」

年下の相方を持つ二人は、お互いを労った。
一方の飛段は痛い程に拳を握っていた。
雅を想い続けて二年になる。
自分の方が雅と過ごしてきた時間は長いのだ。
絶対に諦めない。



2018.6.3




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