強靭な精神力

手を出さない強靭な精神力を身に付ける。
そう大口を叩いたのはつい先程だ。
しかし、デイダラは早々に試練を迎えていた。
相部屋で一緒に寝るという試練を。

「うん…オイラは強靭な…うん…」

二人分ある敷き布団の一つに腰を下ろしながら、デイダラは何やらぶつぶつと言い続けていた。
足だけを掛け布団に入れて上体を起こす雅に背を向けながら、自分にひたすら暗示をかけている。
既に部屋の照明は消され、真っ暗に近い。
外からの月明かりも、殆どがカーテンに遮断されている。
雅はデイダラの背中を見ながら微笑んだ。
デイダラの様子が変だが、可愛い。

「デイダラ」
「う…!」

雅がデイダラの背中に片手でそっと触れた。
デイダラは大袈裟にビクッと反応した後、ぎこちなく顔だけ振り向いた。
暗闇に慣れたデイダラの右目に、心配そうな雅の顔が映った。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ…うん」
「寝ましょう?」

デイダラは冷や汗をかいた。
雅との距離が思った以上に近い。
こちらの敷き布団に乗り上げているではないか。

「絶対寝れねえ…」
「私も」
「何で雅もなんだ?」
「嬉しくて」

雅はデイダラの背中に額を当てた。
デイダラと一緒にいると温かくて嬉しくて、胸が高鳴る。
その背中の温もりに目を閉じながら、独り言を呟くように言った。

「私はデイダラが好きなんですね」
「…!」

雅の口からその言葉を初めて聞いたデイダラは息を呑むと、身体をぐるっと反転させた。
雅の両肩をガシッと掴み、胸が高揚するのを必死で抑えながら言った。

「それをオイラの目を見て言ってくれ!うん!」

膝立ちになるデイダラに目を瞬かせた雅は、視線を逸らして頬を赤らめた。
デイダラは呼吸をするのを忘れた。
待っている時間をとても長く感じた。

「私は…」
「うん」

震えそうになる手をデイダラの胸板に置いた雅は、ゆっくりとデイダラの目を見た。
今日気付いたばかりの気持ちを伝えたい。

「デイダラが好きです」

デイダラは目を見開いたまま硬直した。
恥ずかしさで顔が沸騰しそうになった雅は慌てて俯き、顔を両手で覆った。

「もう…何か言ってくださいよ」
「あ、ああ…悪い…うん…」

膝立ちになっていたデイダラは、改めて敷き布団に腰を下ろした。
雅の肩に置いていた手を背中に回し、自分に引き寄せた。

「幸せだ」
「私も」

雅に抱き締め返されたデイダラは、胸が幸せで一杯になった。
しかし、明日からまた逢えなくなる。
雅はターゲットの暗殺、デイダラは暁の任務がある。

「寝るのが惜しいな…。
けど、お前はちゃんと寝ないとな」
「デイダラもちゃんと寝ない…と…」

雅の台詞が不自然に小さくなった。
デイダラから離れようと雅が顔を上げた時、お互いの鼻先が触れ合いそうな至近距離にいたからだ。
二人は時が止まったかのように見つめ合った。
雅は動揺しながらも、デイダラから視線を逸らせなかった。
一方のデイダラは頭がぐるぐると混乱した。
先に動いたのはデイダラだった。
雅と離れるべく、その肩を慌てて押しながら、顔を背けた。

「っ、すまねえ…!」

デイダラは落ち着こうと深呼吸した。
そう、強靭な精神力を身に付けるのだ。
折角恋人同士になれたのだから、早々に嫌われたくはない。
すると、左頬に雅の手がそっと添えられ、背けていた顔を元に戻された。
傍に寄ってきた雅に、デイダラは全身に期待が駆け巡るのを感じた。

「腰抜け…ですか?」

雅がデイダラにゆっくりと顔を寄せると、それを察したデイダラも同じように顔を寄せた。
二人の唇が柔らかく触れ合った。
頬に添えられたデイダラの手が温かくて、雅はその手に自分の手を重ねた。
唇が離れても、お互いの吐息がかかる距離で囁くように話した。

「…腰抜けで悪りーかよ」
「…いいえ」

雅は頬を赤らめながらも微笑んだ。
初めての口付けの相手が、デイダラで良かったと思った。
あまりに緊張したデイダラも、まるで初めてのような感覚がした。
娼婦との口付けとは訳が違った。
ファーストキスの相手が娼婦だと思うと、我ながら反吐が出そうだ。
もうあんなものは忘れてしまいたい。
雅の記憶で上書きして、消してしまいたい。

「雅」
「何ですか…?」
「嫌なら抵抗しろよ」

あっという間に唇を塞がれた雅は、デイダラに後頭部を引き寄せられた。
デイダラの余裕のなさとは対照的に、その口付けはとても優しかった。
デイダラの肩部分の浴衣を弱々しく掴んだ雅は、慣れない口付けに必死で応えた。
一方のデイダラは強靭な精神力とやらが脆く崩れそうになっていた。

がっつくな、オイラ…!
優しく…優しくだ。
舌とか絶対突っ込んだら駄目だぞ、うん!

しかし、雅が口付けの合間に短く零す熱い吐息に欲情してしまう。
理性の糸が切れてしまう前に、デイダラは唇を離した。
二人で暫く見つめ合った後、デイダラが名残を惜しむように言った。

「そろそろ寝ないとな」
「なら一緒に寝ていいですか?」
「………うん?!」

雅は完全にデイダラの敷き布団に乗り上げている。
照れ臭そうにする雅が可愛らしくて、デイダラは頭が爆発するかと思った。
今こそ、強靭な精神力を試す時だ。

「来い!雅!」

デイダラは雅にバッと両腕を広げてみせた。
きょとんとした雅だが、笑顔になってデイダラの胸に跳び込んだ。
雅を受け止めたデイダラは、背中から敷き布団に倒れ込んだ。
肩に頭を乗せてきた雅の為に掛け布団を引っ張り上げ、二人で一緒に入った。

「デイダラ…あったかい」

雅はデイダラの温もりに目を閉じた。
耳を押し当てている肩からデイダラの速い鼓動が聞こえる。
デイダラは仰向けで雅の肩を引き寄せながら、自分も目を閉じた。
半殺しの次は生殺しか、などと考えながら。



2018.5.3




page 1/1

[ backtop ]



×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -