告白の返事
オレの女になってくれと言われても、雅はすぐに返事が出来なかった。
その台詞の理解に遅れたからだ。
「──え…?」
雅は目を見開きながら、緊張で身体を強張らせるデイダラの目を見つめた。
肩に置かれているデイダラの手から、その緊張がすこぶる伝わってくる。
「お前が好きなんだ」
デイダラが私を好き?
その好き≠ヘ恋愛の好き≠セと解釈して間違いないのだろうか。
「嘘だと思ってるだろ」
「だって…」
突き放すような事を言っておきながら、告白するなんて。
好きだと言われても、雅は信じられなかった。
「デイダラが私に軽蔑されていると思ってしまうのなら、私はデイダラと馴れ合わない方がいいと思って…」
「馴れ合いって何だ?」
デイダラは雅を再び引き寄せると、その華奢な身体をぎゅうっと抱き締めた。
「こういう事か?」
「っ、分かっているなら離してください」
「嫌だ…うん」
嫌なら抵抗していいと言った癖に、デイダラには雅を離すつもりなどなかった。
雅も離してと言いながら、抵抗する素振りを見せない。
デイダラは雅の髪から風呂上がりのいい香りがして、目を閉じた。
告白で緊張していた身体が少しばかり落ち着いてきた。
雅の逆上せた身体の体温が徐々に下がり始めているから、少し冷んやりとして心地良い。
「私は全てのターゲットを始末したら死ぬと決めていたのに…」
雅はデイダラの腕の中で涙が溢れた。
デイダラは衝動的に雅の肩を掴み、涙さえも芸術的な顔を覗き込んだ。
雅は哀しげな涙声で言った。
「そんな事を言われたら…自害するのを躊躇います」
「死ぬな!オレが許さねえぞ!」
「ずっと殺したいと思っていたのに?」
「オレだって変だと思ってるんだぞ。
あれだけ殺したかった女に惚れたんだからな」
デイダラは説得を試みようと思った。
しかし、雅が両手に顔を埋めて静かに泣いているのを見て、頭が真っ白になりそうだった。
こういう時はどうすればいいのだろうか、さっぱり分からない。
デイダラは無我夢中で説得を続けた。
「絶対に死ぬな。
角都の旦那も飛段も泣くぞ」
短気で有名なあの角都が雅を可愛がっている。
倒れてしまった雅をしっかりと支えた角都の様子に、当時のデイダラは驚いたものだ。
角都は間違いなく雅を大切に思っている。
ジャシン教に心酔している飛段も、雅にベタ惚れしているのだ。
「デイダラは?」
「うん?」
「デイダラは私が死んだら泣いてくれますか?」
デイダラは雅の顔を両手で包み、額同士を触れ合わせた。
「それ以前に、オレがお前を死なせねえよ」
その返答を聞いた雅は自分の涙を手の甲で拭い、デイダラの目を間近で見つめた。
デイダラは何度でも言おうと思った。
雅に伝わるまで、何度でも。
「雅が好きだ。
だから死ぬな」
「…っ」
「好きだ」
雅は自分の頬が熱くなるのが分かった。
こんな風に真っ直ぐ伝えられると、胸の高鳴りが止まらない。
「雅を喰いものにしたりしないって言った癖に、オレは正直こうやってお前に触りたい。
傍にいると危ねえと思った。
だから離れようとしたんだ、けどやっぱり…」
デイダラは涙の筋が残る雅の頬を、親指でそっとなぞった。
「無理だったな、うん」
たとえ気持ちが通じ合わなくても、雅の傍にいたい。
自害など、絶対にさせない。
ペインに雅とサソリとのスリーマンセルを頼み込んででも阻止する。
雅は涙を堪えながら言った。
「私はデイダラがいないと凄く寂しくて…」
「…うん」
「デイダラがくれる言葉が嬉しくて…」
デイダラは孤独を感じながら生きる雅に、沢山の初めてを与えている。
雅は誰かからこんなにも真っ直ぐに思いをぶつけられた事はなかった。
「上手く出来ないかもしれませんけど…でも…」
何が上手く出来ないのか、デイダラには分からなかった。
言葉を続けようとした雅を静かに待った。
「宜しくお願いします」
「…うん?」
雅は理解が遅れているデイダラの片頬に手を添えると、涙ながらに微笑んだ。
「今から…私をデイダラの恋人にしてください」
望んでいた台詞を聞いたデイダラは、自分が現実から遠退いているような、夢でも見ているような心地がした。
雅の手の冷んやりとした体温で、現実に引き戻された。
「……マジか」
「はい」
「………」
「え?」
デイダラの沈黙に不安になった雅だが、次の瞬間には思い切り抱き締められていた。
更には軽く持ち上げられ、デイダラにぐるぐると振り回された。
遠心力で床に足が着かずに、デイダラにしがみついた。
「オイラ嬉しいぞ!うん!うん!」
「わっ、ちょっとデイダラ…!」
もしリア充という言葉があるのなら、爆発したくないとデイダラは思うだろう。
振り回してしまった雅をきちんと下ろし、ガッツポーズをしながら言った。
「雅に手を出さない強靭な精神力を身に付けてみせるぞ!うん!」
「何ですかそれ」
雅が柔らかく笑うと、デイダラは赤面した。
愛しい、可愛い、もう堪らない。
頬の緩みが止まらない。
「ありがとう、デイダラ」
「それはオイラの台詞だ」
たった今から、恋人同士。
照れ臭くなった雅は、俯いたままデイダラに抱き着いた。
何もかも初めてで、色々と上手く出来るか分からない。
それでも、一緒にいたい。
明日の我が身の上に何が降りかかるか分からない戦渦に身を置く二人は、巡り逢えた幸せを感じた。
2018.5.2
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