静かなる斬殺-2

「お前は甘いな。
さっさと殺せばいいものを」
「サソリさん」

現れたのは、サソリだった。
ヒルコ状態のサソリが、三代目風影の傀儡で砂鉄を使用したのだ。
雅には鉱物の色をした砂のように見えたが、それは砂鉄だった。

「私はターゲット以外を殺さないと決めているんです」
「それが甘いと言っているんだ」

二人共、台詞は淡々としていた。
雅が目を閉じると、辺り一面を覆っていた氷世界が消えた。
大将の身体を覆う氷だけは消えなかった。
気温が戻り、馬がその場から逃走した。
蹄の音が消えると、その場に静けさが戻った。
チャクラ糸に操られた三代目風影の人傀儡は、パイプのように伸ばした両腕で五人の忍を掴んだ。

「人傀儡の材料になる忍を探していたところだ。
この人間は貰っていくぜ」
「どうぞ」

雅は人傀儡の製造法を角都から少しだけ聞いた事があるが、聞くに耐えない内容だったのを覚えている。
黒衣のフードを脱ぎ、斬り落とした大将の首を残忍な目で見つめた。
サソリはデイダラの言っていた事が分かった気がした。
デイダラが独り言でギャップ萌えだとか言っていたが、この雅の様子を見ると、確かに極端だ。
笑顔の仕方を忘れたような表情。
無慈悲で残忍な殺し方。
死んでくださいと呟いた時の、氷のように冷たい声。
二年前のデイダラはこの雅と交戦したのだ。

「お前はあれの相手をしろ」

雅がサソリの視線の先にある空を見上げると、デイダラの乗った白い鳥型粘土が見えた。
高度を下げたデイダラは地表に軽々と着地すると、この現場を見て目を見開き、二人を交互に見た。

「雅……とサソリの旦那」
「おまけみたいに言うんじゃねえ」

デイダラは心苦しく思いながら雅を見つめた。
一方の雅はデイダラを見ても、表情を変えなかった。
まだ全ての片付けが終わっていないからだ。
雅は掌で氷のクナイを二本造り出すと、生き絶えた大将の頭部と胴体に向かって音もなく投じた。
クナイが命中した瞬間、それは粉々に砕け散り、真夜中の細い月に煌めいて反射した。
人間の亡骸だというのに、芸術性に溢れた光景に、デイダラは息を呑んだ。
氷の粒子は空気中の水蒸気へと化し、亡骸自体も分子レベルに粉々になり、溶け込むように消えていった。
それはデイダラが感銘を受ける芸術そのものだった。
美しく儚く散っていく一瞬の美。
その中心に惚れた女がいるとなれば、尚更だ。

「デイダラ」

目前で生み出された芸術に我を忘れていたデイダラは、透明感のある声にハッとした。
雅の声は冷たくはなかった。
やっと表情を変えた雅は、哀しげに微笑んだ。

「何故追ってきたのですか?」
「追うに決まってるだろ!」
「近寄るなと言いましたよね?」
「こんなに離れろとは思ってねえよ!」
「私を拒絶しましたよね?」
「そうじゃねえんだ!
聞いてくれ、雅…!」

その会話を聞いていたサソリは、自分の中に残留している感情というものが、沸々と苛立つのを感じた。
デイダラの表現で言うなら、カンニン袋が爆発しようとしている。
一体何なんだ、この二人は。

「……いい加減にしろ」

雅とデイダラは目を見開くと、怒りを露わにする声の主を見た。
サソリは二人の足元に砂鉄の針を突き刺してやろうかと思った。

「デイダラ、お前にはもううんざりだ」
「な…!」

一ヶ月前に雅と再会して以降、デイダラの恋煩いは鬱陶しい事この上ない。
毎日のように雅の事ばかりを考えるパートナーに心底呆れる。

「俺が気を遣って雅と二人にしてやってるのが分からねえのか、この腰抜け。
病人の雅を宿から出すんじゃねえ」
「腰抜け…」

またしても腰抜けと言われたデイダラは、何も言い返せなかった。

「雅、お前もだ」
「……」
「自分で解毒していたとはいえ、宿の調理場を借りて薬を調合した俺の身にもなれ。
一晩くらい大人しく出来ねえのか」
「…ごめんなさい」

もう病人ではなく、元気そのものだ。
雅はそう言い返すのを控えた。
少し俯きながら、肩幅が狭くなる思いがした。

「二人でさっさと宿に帰れ」
「分かったよ…うん」
「分かりました」

デイダラは待機させていた鳥型粘土に跳び乗ると、雅に片手を差し出した。
一度は躊躇った雅だが、その手を取り、デイダラの背後に跳び乗った。
鳥型粘土が飛び立つ前に、雅は不機嫌なサソリに言った。

「サソリさん」
「何だ」
「ありがとうございます」

サソリは鼻をフンと鳴らすと、チャクラ糸を操り始めた。
鳥型粘土が上空に飛び立っても、雅はサソリが見えなくなるまでずっとその姿を見つめていた。



2018.4.23




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