静かなる斬殺

二年以上も昔に女を喰っていた事実など、正直どうでもいい。
デイダラにそう話しても、嘘のように聞こえるだろうか。
己を半殺しに陥れた雪女が余りに芸術的で、他の女が不細工に見えるようになった。
それによって二年に渡って女を抱けなくなり、雪女を爆破したいと思い続けた。
それを知った雅は、自分がデイダラの中で大きな存在だったのだと知った。
それで充分なのに。

「何者だ?」

とある大名の大将が真夜中にこの森を通る。
その情報を、雅は以前から知っていた。
馬に乗って鎧を身に纏うこの男大将は、雅のターゲットの一人だ。
ちなみに、賞金首ではない。
他にも護衛の忍が五人、ランタンを手に持つ家臣が二人。
忍の額当てを見ると、砂隠れの忍だった。
通常なら他人に姿を見られる事なくターゲットを暗殺するのだが、今日は例外だった。
見られる見られないはどうでもいい。
無性にターゲットを始末したい気分だった。
雅は黒衣のフードの下から、氷のように冷たい目で大将を見た。

「あなたを殺します」

私は自惚れていたのかもしれない。
デイダラ、あなたを軽蔑なんてしていない。
ただ傍にいて欲しいだけなのに。

「家臣や忍の方々、今なら見逃します。
この場から立ち去ってください」
「我々の任務はこの方の護衛だ!
逃げる訳にはいかん!」

そう主張した忍たちが立ち去る様子はない。
嗚呼、またターゲットとは無関係の人間を傷付けなければならないようだ。
雅はその場にしゃがむと、指先を地表に当てた。
その瞬間、辺り一面が氷世界になり、地表の土も木々も凍り付いた。
気温が一気に下がり、身震いする程の寒さで吐く息が白くなる。
大将の跨っていた馬が地表の氷に滑り、派手に転倒した。
忍の一人が足裏のチャクラで氷の上を移動し、落下する大将を受け止めようとした。
しかし、雅は忍全員の両足を地表の氷で捕らえ、移動を封じた。
黒衣を纏う雅に、転倒した大将は震える声で言った。

「まさか…お前は雪女の生き残り…!」
「あなたが一族の人間三人を多額で購入したのを、売買記録を記した巻物を盗み見て知りました」
「何故その巻物を…」
「城に潜入したんです」

雅は氷の上を淡々と移動し、怯える大将を見下げるように立った。
背後で忍が印を結ぶのを感知すると、その腕を氷で締め上げ、術の発動を阻止した。
雅は空気中の水分を凍らせたり、遠隔で対象物を冷凍するといった能力を持つ。
そうして造り出された氷は、雅の意思で温度調節が可能だ。
絶対零度まで達し、人間の身体など瞬間で凍死する。
忍は両足が凍死寸前となり、冷たいという感覚さえなくなっていた。
二人の家臣は雪女との遭遇で悲鳴さえ口に出来ず、恐怖で逃げられずにいた。
罪のない馬だけは転倒しただけで、身体に異常がない。
大将は雅の足元で土下座をしようとしたが、氷に滑る身体は言う事を聞かない。

「待ってくれ…何でもする!
だから命だけは…!!」
「何でもする、と?」

その命乞いを無様に思った雅の声は、抑揚もなく無感情に聞こえた。
地表の氷が侵食するかのように、大将の震える身体を徐々に覆ってゆく。

「何でもすると言うのなら──」

突き刺すような氷の痛みで大将は絶叫しようとしたが、顔まで氷で覆われ、それはならなかった。
絶望が脳内を駆け巡りながら、その身体が時間をかけてじっくりと凍死してゆく。
雅はその様を射抜くような目で見つめながら、細長く鋭利な氷刃を掌に造り出した。

「死んでください」

一太刀だった。
大将の首が跳んだが、血飛沫はない。
血液や骨の髄まで凍っていたからだ。
二人の家臣の絶叫が深夜の森に響き、雅は静かに振り向いた。
残された家臣と忍たちをどうしようか。
ターゲットではないから、殺すつもりはない。
その時、クナイのような何かが高速で飛来し、七人の心臓を貫通した。
雅は一度瞬きをしただけで、その反応は薄氷のように薄かった。





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