別れ際-2

宿の玄関前に、雅と老婆が芸術コンビの見送りに出ていた。
デイダラは掌の口から鳥型粘土を造り出して印を結び、サソリと二人で乗れる程の大きさに変化させた。
ヒルコとなったサソリは雅と老婆に低い声で言った。

「世話になったな」
「またいらしてくださいな」

サソリはデイダラより先に鳥型粘土の背中に跳び乗った。
雅はそれを見ながら、ヒルコは重厚そうなのによく軽々と跳べるものだな、と思った。

「サソリさん、お気を付けて」
「お前こそ、もう油断するなよ」
「ご迷惑をおかけしました」

雅は薬を調合してくれたサソリに頭を下げた。
サソリは暁の笠を目深に被り、出発の準備を完了した。
笠を手に持つデイダラは雅の前に立った。
二人は傍で向かい合いながら、お互いの目を見つめた。

「お気を付けて」
「お前もな、うん」

離れるのが寂しい。
雅の目がそう語っているのを見たデイダラは、空いている手を雅の頭に置いた。
そして、可憐な唇に短い口付けをした。
目を丸くした雅は、一拍子遅れて真っ赤になった。
その反応に満足したデイダラは、喉でククッと笑った。
待つのが面倒なサソリは浅く溜息をついたが、この二人がやっとくっ付いたのだと悟った。
デイダラも腰抜けなりに頑張ったのだろう。

「それじゃあな」

デイダラは雅に背を向け、笠を被った。
それを見た途端、雅の胸に何かが込み上げた。

―――デイダラがいないと…寂しい。

「デイダラ!」
「うん?」

鳥型粘土に跳び乗ろうとしていたデイダラは思い留まり、雅に振り向いた。
すると雅が駆け寄ってきて、胸に縋り付いてきた。
その予想外の行動に驚いたデイダラだが、困ったように笑った。
肩を竦めて小さくなる雅の身体を、包み込むように抱き締めた。

「雅、あんまり可愛い事すると連れてっちまうぞ?」

雅は頷いてしまおうかと思った。
しかし、一日も早く一族の恨みを晴らさなければならない。
それが終われば、デイダラと共に行こう。
雅は顔を上げると、暁の黒装束の高い襟元を指で少しだけ下げ、笠の中に隠れてデイダラに口付けをした。
笠の鈴が透明感のある音を立てた。
驚いた顔をするデイダラと間近で見つめ合うと、雅は頬を赤らめながら一歩下がった。

「それでは…また」
「うん、またな」

微笑んだデイダラは今度こそ鳥型粘土に跳び乗った。
雅から力を貰った。

「婆さん、世話になったな!うん!」
「お二方共、良き旅を」

デイダラは雅に軽く片手を上げた。
雅も手を振り、大空へと飛び上がった二人を見送った。
朝の日差しに目を細め、老婆に振り向いた。

「婆様、私も行きます。
お世話になりました」
「道中気を付けなされや。
またいつでも来なさい」
「ありがとうございます。
それでは、行って参ります」

雅は頭を下げ、国の門へと歩き出した。
デイダラの存在が生きる力をくれた。
恋心というのは強い武器になるようだ。
黒衣のフードを被り、一歩一歩着実に前へ進んだ。



2018.5.4




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