嫉妬の先に-2

施設の非常口は二階にあり、外階段で繋がっていた。
その場所が分かり難いせいか、スマートフォンを掲げて愛を探すような人間の姿はない。
ゆっくりと開いた非常口から出てきたのは、愛と越前だった。
無音で恐る恐る重厚な扉を開ける様子は、まるで窃盗犯のようだ。

『あ、国光。』

愛は此処へ来た時とは別の服装だった。
丸縁の伊達眼鏡に、キャップを目深に被っている。
更に、今回は黒髪のかつらを友人のように三つ編みにしていた。
二人は階段を降りてきた。

『迎えに来てくれてありがとう。』

「二人共、ご苦労だった。」

「ういっス。」

私服の越前は優勝賞品とトロフィーの入った紙袋を持っている。
愛はトロフィーをバッグに入れたらしく、両手が空いていた。
愛と越前が一緒にいるのを見ると、やはりいい気はしない。
越前は周囲に人がいないのを確認し、早口で言った。

「俺は人に見つからないうちにバスで帰るんで。」

『沢山写真撮られちゃったね、ごめん。』

「別にいいよ。」

越前は特に動揺していないようだった。
この程度は想定内だったのかもしれない。
愛は不安そうな表情で言った。

『テニス協会に裏から手回して貰って、雑誌には何も載らないようにして貰うから。』

「宜しく。」

愛と越前はまだ中学生だ。
テニス雑誌はプライベートな話題に手を付け難いだろう。
それに、テニス協会は将来有望の愛をマスコミから全力で守る筈だ。
一昨年のW杯で危険な目に遭った愛を、テニス協会はとても大切にしている。
越前は俺と視線を合わせると、勝ち誇ったように口角を上げた。
撮影されている時とは全く別の笑みに、俺は無表情ながらも不快感を覚えた。
越前は俺の隣に立つ愛に言った。

「今日はサンキュ。

ちゃんと優勝出来たし、アンタ流石だね。」

『かしこまっちゃって、気持ち悪いなあ。』

「…人が素直に感謝してるのに。」

『ごめんごめん、冗談。

此方こそありがとう。』

「またお礼するから。」

越前は素っ気なく口角を上げ、俺たちに背を向けた。
周囲を確認しながらキャップを目深に被り、早足にその場を立ち去った。





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