大会会場での見送り-2
俺が不二と裕太君の待つ場所まで戻ると、其処には既に愛がいた。
テニスウェアに着替えている愛は、俺に手を振った。
キャップを目深に被り、髪を入れ込んで隠している。
更には赤縁の伊達眼鏡という徹底振りだ。
完全に変装しているが、俺にはすぐに愛だと分かった。
伊達眼鏡も意外と似合っている。
『国光ー!』
「待たせたか?」
俺はレジャーシートの上で待つ愛の隣に座った。
愛は俺の顔を見た途端に笑顔を見せてくれた。
裕太君が愛に突っ込みを入れた。
「すげー変装っぷりだな。」
『試合が始まるまでこれでいくよ。』
「おう、頑張れよ。」
愛と裕太君は拳を突き合わせた。
次には不二が愛の頭を撫でた。
「何時も通りにね。」
『はーい。』
愛は不二から微笑みを貰うと、小さくガッツポーズを見せた。
そして、俺の目を見た。
「油断せずに行ってこい。」
『行ってきます。』
少しだけお互いの手に触れ、そっと離した。
愛は立ち上がり、手を振ってから踵を返した。
不二はその背中を見送りながら、声のトーンを落として言った。
「マスコミの記者が来ないか心配だね。」
「何言ってんだよ、愛ならマスコミなんか慣れてるって。」
「分かってないね、裕太。
あんな記事を書かれたんだから、愛は不安に思ってるよ。」
裕太君は言葉に詰まった。
俺は選手の控え室に向かった愛の背中が見えなくなるまで見送った。
白血病疑惑などと馬鹿げた記事を公にされそうになったのは、つい最近だ。
しかし、愛ならそれを一蹴するだろう。
この市民大会でも優勝してみせる筈だ。
愛の実戦経験は俺を遥かに上回る。
ただ油断はするな、愛。
2018.1.17
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