やっぱり暴力反対

申し訳なかったと思う。
この人が通うテニススクールでミクスドの練習をした日に、竜崎に無断で話してしまった事。


―――俺、ちゃんと振られてるから。

―――好きになりそうだから事前に振ってくれってあの人に頼んだ。


あの時は俺にも余裕がなかったんだ。

『もしあたしにぶつけたらテニスボールぶん投げる。』

「暴力反対。」

今日は水曜日。
この人、不二愛はテニスボールのかごの隣にいた。
ダブルスの前衛の位置にいる不二にぶつけないように、後衛の俺がサーブを打つ練習だ。
青学中等部の男女共用コートで、俺たちは放課後に練習していた。
今日から学年末テスト前の部活休止期間だから、周りには人がいない。
二人でダブルスの練習をするのは、これで三度目だ。
俺は一球目を頭上に投じ、ツイストサーブを打ち込もうとした。
けど、球出しをしようとする不二と目が合った。
相変わらず美人だと思った時、気が散ったせいで手元が狂った。

『わ…?!』

不二は咄嗟に身を翻し、顔面に向かってきた俺のサーブを避けた。
俺の顔から血の気が引いた。

「ごめ…っ!」

『真面目にやってよ。』

「…ごめん。」

その綺麗な顔にテニスボールをぶつければ、手塚(元)部長に息の根を止められそうだ。
不二は腰に片手を当て、ぷんすかしている。
俺は気を取り直し、ポケットからテニスボールを一つ取り出した。
次のツイストサーブはしっかりと成功させ、不二が俺にテニスボールを一つ緩く投げた。
それを掴み、頭上に投じてサーブを打つ動作を繰り返した。

『慣れてきた?』

「かなり。」

俺にはダブルスのセンスがない。
幾ら不二が上手くても、俺がミスを重ねれば失点に繋がる。

「アンタもする?」

『うん。』

テニスボールを拾い、かごに戻した。
不二と立ち位置を交代し、球出しの準備をした。
アンダーサーブの構えを取った不二は、ラケットを振り抜いた。
あのテニススクールでも見た消えるサーブが目の前で披露されると、俺の気が引き締まった。
不二の試合をネットで観ると、他の女子ジュニアの選手と比較にならない程にサーブが抜きん出ている。
サービスエースが極端に多い。

「誕生日に何貰ったの?」

『ゲームとか本とか。』

球出ししながら何となく話しかけたら、答えを返してくれた。
不二は俺がパスしたテニスボールを片手で掴み取ると、頭上に投じた。

『ゲームし過ぎて寝不足だよ。』

「ふーん。」

俺が素っ気ない返事をしても、不二は気にせずサーブを続けた。
きっと手塚部長が端的な返事をしても、この人は気にしないんだろうな。
話し上手だし、寡黙な手塚部長相手でも問題なく会話するんだろうな。

『おーい、越前君。』

不二の声で我に返った。
俺はテニスボールを手に持ったまま、球出しも忘れて硬直していた。

『急にフリーズして如何したの?』

「ああ、うん。」

不二はコートの向こう側に行くと、転がっているテニスボールをラケットで次々と拾い、かごの中に打ち込んだ。
俺もそれを手伝いながら、ぼそっと言った。

「しつこいかもしれないけど……ごめん。」

『いいよ、ちゃんと避けたんだし。』

「そうじゃない。」

俺の隣で不二はテニスボールを打ち上げ、かごの中に入れた。
そして目を瞬かせながら首を傾げ、俺を不思議そうに見た。
柔らかそうな白いシュシュで高めのポニーテールをしている。
凄く似合う……可愛い。

「竜崎と小坂田の事、謝ってるんだけど。」

『え、もういいよ、解決したんだから。

越前君にも説明したでしょ?』

あの二人と和解したと電話で説明された時、ほっとした。
俺は今、人生に三度あると言われているモテ期かもしれない。
バレンタインデーにもチョコレートを沢山貰ったし、知らない女子に告白された。
でも、本当に好きになって欲しい人は俺を見ていない。

「明日は練習する?」

『張り切ってるね。

そんなに練習しなくても勝てるよ。』

俺もそう思う。
ダブルスに不慣れな俺の単純なミスなら、不二がカバーしてくれるだろうし。

『学年末テスト前なのに、大丈夫なの?』

「……余裕。」

『嘘っぱち。』

振られに行った時点で諦めている。
でも、まだ好き…になりそうな気持ちは消しきれない。
二人で練習する時間が楽しいだなんて、口が裂けても言えないんだ。



2017.12.27




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