誕生日デート 前編-2

『一昨日来やがれ。』

完膚なきまでにフルボッコだった。
相手の手の内を知る前に、お得意のコンボで打ちのめしてやった。
おっさんはゲーム機の上に200円を残し、尻尾を巻いて逃げた。
十人以上集まってしまった若いギャラリーが、逃げる背中にブーイングを浴びせている。

『ざまーみなさい。』

そう言い捨てたあたしが立ち上がると、目を輝かせた男の子が片手を上に伸ばしていた。
あたしは求められるままにハイタッチし、微笑んだ。

「お姉ちゃん超強い!」

『そうかな。』

おっさんが残した200円を手に取り、男の子に渡した。
男の子はとびきりの笑顔を見せてくれた。

「ありがとう、綺麗なお姉ちゃん。」

『あはは、どういたしまして。』

綺麗なお姉ちゃんだなんて、恥ずかしいな。
メニエール病で入院していた当時、女の子のお財布を取り戻す為に高校生と試合した。
それを思い出し、懐かしくなった。
すると、ギャラリーの中にいた短パン少年が話しかけてきた。

「姉ちゃん俺とも闘ってよ!」

『ごめんね、デート中なの。』

あたしは国光の腕に手を掛けた。
国光と視線を合わせ、微笑んだ。

『あ、その子と闘ってあげて?』

あたしに背中を押された男の子はきょとんとした。
短パン少年は優しい子だったみたいで、あたしとの対戦を諦めて言った。

「坊主、遊ぶぞ!」

「やったあ!」

あたしは男の子たちに手を振り、国光と一緒にその場を去った。
プラネタリウムの上映時間にはまだ時間がある。
国光はあたしに手袋とショルダーバッグを渡しながら言った。

「強かったな。」

『時間取ってごめんね。』

「いいや、お前をあの場に連れていったのは俺だ。

お前なら打ち負かせると思った。」

見事にしてやったり。
手袋をはめ直しながら、あたしは満足していた。
でも、はっとした。
今日は国光に思う存分甘えるだなんて思っていたのに、ワイルドに格ゲーを楽しんでしまった。
女の子らしさの欠片もないじゃないか。
プラネタリウムの会場へと歩き出した時、国光が尋ねた。

「美人だと思う女子スポーツ選手ランキング1位なのか。」

『し、知らないよそんなの。』

初めて聞いた。
何なんだ、そのランキングは。
実在するのか気になる。
もしそれが本当に実在するなら、ちょっぴり自信になる。

『もうこの話は終わり!』

「照れているのか。」

『違うもん。』

登りのエスカレーターに乗った時、前に立つ国光の背中に軽く頭突きをした。



2017.12.22




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