妹の親友
越前はビビるだろうな。
俺が大体全部知ってるって聞いたら。
「ただいまー。」
「お兄ちゃん、おかえりなさい。」
俺の妹、華代は癒し系だ。
ほんわかと柔らかい雰囲気が、見る人を温かい気分にさせる。
俺は華代の親友である愛ちゃんからシスコンと言われるけど、シスコン上等だ。
そんな愛ちゃんと俺は長年の付き合いという訳でもない。
華代に親友がいるとは聞いていたけど、それがあの不二先輩の妹だとは思わなかった。
愛ちゃんと初めて逢ったのは俺が青学に入ってからだ。
二人が俺の家で遊んでいる時、偶然逢ったんだ。
「今日さ、愛ちゃんが噂の越前と揉めてた。」
「愛が?」
「突っかかってたぜ。
でもその後はハイタッチしたり、変だったなぁ…。」
リビングのソファーでテレビの音声を聞いていた華代は、俺に顔を向けた。
俺はダイニングテーブルの椅子にテニスバッグをよいしょと置いた。
「とりあえず、手洗ってうがいしてくる。」
「行ってらっしゃい。」
帰ってきたばかりなのに行ってらっしゃいと言われた事に違和感を感じながら、がらがらーっと呑気にうがいをした。
リビングに戻ると、ダイニングテーブルにベタッと突っ伏した。
今日も部活に疲れた。
特に海堂との張り合いには気力を使う。
「お兄ちゃん、愛からまだ連絡がないの。
友達二人とはお昼に話せたみたいだけど…。」
「部活の後も越前と練習してるみたいだからな。」
越前が愛ちゃんに告ったと知ったのは、華代が電話で話しているのを聞いてしまったからだった。
それ以降、俺は愛ちゃんと華代を交えて恋愛トークをする事態になっている。
竜崎、小坂田、越前の三人を知る俺は、学校で何かと口が滑らないように気を付けている。
俺はスマホをポケットから引っ張り出し、手塚元部長とのメッセージのやり取りを確認した。
―――――
愛ちゃんが越前にツっかかってましたよ!
俺が間に入って止めました。
―――――
わざわざすまない。
愛にきつく言っておく。
―――――
愛ちゃん、ごめん。
俺のせいで怒られたらマジでごめん。
手塚部長、怒ってんのかな…。
あ、違った、手塚元部長だ。
手塚元部長という響きに、如何しても慣れない。
本来は手塚先輩とお呼びするのが正しいのかもしれない。
しかも俺は副部長になったというのに、まだ実感がない。
因みに、手塚元部長は俺が大体の事情を知っているのを承知の上だ。
W杯に何があったのか、愛ちゃんの恋模様だとか。
俺は一通り知っている。
手塚元部長にとって、俺は恋人の親友の兄という立ち位置だ。
何かと知っていても可笑しくはない筈だ。
―――恋愛って難しいね。
あの台詞が印象的だった。
愛ちゃんは竜崎と小坂田の恋愛事情にも巻き込まれ、疲れているように見える。
俺は愛ちゃんの話を聞いたり、ゲームに付き合うくらいしか出来ない。
だから、それを精一杯やろうと思う。
愛ちゃんには華代を支えて欲しいから。
2017.10.19
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