沢山の味方-2

「愛が泣く必要ないわ。」

全てを話すと、お姉ちゃんはきっぱりとそう言った。
何故、こんな状況になったんだ。
不二宅のリビングにはお兄ちゃん二人とお姉ちゃん、そして国光とあたしがいる。
四人掛けのダイニングテーブルを五人で囲い、お父さん席にはお姉ちゃんがドンと座っている。

「愛は一方的に越前君から好きになりそうって言われたんでしょ?

竜崎さんにも越前君が一方的に話したんでしょ?」

『う、うん。』

うん以外は言わせないようなお姉ちゃんの威圧感。
斜め前に座っているあたしは冷や汗を掻いた。

「竜崎さんは越前君に振られちゃったようなものだけど、それは愛のせいじゃないでしょ。

手塚君と越前君が言った通り、愛は悪くないわ。」

国光の名前が出てきたから、隣にいる国光の顔を見た。
国光は頷いてくれた。
裕太お兄ちゃんが気難しそうに考えながら言った。

「姉貴、もし俺が愛の立場だったら同じように悩むと思う。

だからさ、愛が罪悪感を感じるのも分かってやってくれよ。」

「でも愛は悪くないわ。」

お姉ちゃんは気丈に振る舞っている。
あたしは裕太お兄ちゃんのフォローが素直に嬉しかった。
お姉ちゃんはまだまだ続けて言った。

「愛は竜崎さんに隠してたというより、言えなかっただけよ。

だってバレンタインデーなんて、まだ先週でしょ?

ほら、愛が胃痛とか何とか言ってたのもつい最近よ?

愛だって手塚君が女の子といるのを見たりして、辛かったんだから。」

『それ言わないで下さい…。』

国光の無表情が硬くなった。
胃痛がしたのはバレンタインデー前後だ。
国光が沢山貰っていたチョコレートを思い出すだけで、また胃痛がしそうだ。
お兄ちゃんが話の流れを戻してくれた。

「竜崎さんは勇気を出して越前をペアに誘ったのに、このタイミングでショックだっただろうね。」

「そうよね、その越前君もちょっとズレてるかも。」

越前君がズレているのは充分承知の上だ。
上級生を敬わない生意気っぷりは常人じゃない。
そんな越前君を、桜乃ちゃんは好きになった。
今日、桜乃ちゃんは凄く傷付いた筈だ。
もしかしたら、越前君の前で泣いてしまったかもしれない。

『桜乃ちゃんと話さなきゃ…。』

今日中にも話した方がいい。
午前中に逢ったばかりだけど、また逢えるだろうか。
あたしはポケットからスマホを取り出した。
やっぱり不安で、国光の顔を見た。

「俺は何時でもお前の味方だ。」

『…ありがとう。』



2017.9.29




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