自己中心的な頼み

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頼みがあるんだけど、放課後に話せる?
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今、既に放課後なんですが。
もう少し早く言って欲しいものだ。
イルカのキーホルダーがついたテニスバッグに教科書やノートを片付けていたのに、突然受信したメッセージで呆気に取られた。
すると、颯爽と帰宅準備をした朋ちゃんがバッグを持っていた。

「愛、桜乃、またねー!」

桜乃ちゃんと二人で走る朋ちゃんに手を振った。
朋ちゃんは年下の双子の兄弟がいて、お世話に忙しくて部活に所属していない。
今日のあたしはテニススクールに行くから、部活を休む。

『桜乃ちゃん、テニスコートに行く用事が出来ちゃった。』

「そうなの?」

『越前君があたしに頼み事があるんだって。

だから途中まで一緒に行くね。』

「リョーマ君が…?」

越前君の名前が出ると、桜乃ちゃんは少しだけ頬を赤くした。
先週のバレンタインデー以降、桜乃ちゃんが越前君にアタックしている様子はない。
越前君はあたしに振って欲しいと言ったばかりだし、まだ誰かを好きになるのは難しいかもしれない。
桜乃ちゃんと朋ちゃんには越前君から「好きになりそう」と言われた事を話せていない。
何時かは話すつもりでいるけど、心の準備が出来ない。
胸の奥の罪悪感は何時消えるだろうか。

バレンタインデーといえば、国光は沢山告白されていた。
それが何人かは聞いていないし、聞きたくもない。
精神的な不安からくるストレス性の胃痛が、バレンタインデーの翌々日まで続いた。
思い出すのはやめよう。

『越前君の頼み事って何かな?』

お兄ちゃんと試合したいとか?
卒業する前に決着をつけたいのかもしれない。

「手塚先輩とは一緒に帰らないの?」

『一緒に帰るよ。

ちょっとだけ待って貰おうかな。』

あたしはテニスバッグのチャックを閉めた。
二人で教室を出ると、階段を降りて下駄箱まで向かった。
ローファーに履き替えると、外で待ってくれていた恋人に声をかけた。

『国光!』

「愛。」

学校で名前を呼び合うのも慣れてしまった。
あたしたちの交際は有名で、他校にも知られているくらいだ。
それに、後2週間もすれば国光は卒業してしまう。
それまでの時間を自然体で過ごしたい。
すると、桜乃ちゃんがあたしの隣にやってきて、国光にぺこっとお辞儀をした。
まるで小動物みたいな仕草だ。

「手塚先輩、こんにちは。」

「愛が世話になっている。」

「そんな事ないです。

私の方が何時も愛ちゃんにテニスや勉強を教えて貰ってばかりで…。」

桜乃ちゃんのテニスの腕は入学当初よりもずっと上達した。
小さな大会で三位に入賞したくらいだ。

『国光、悪いけどちょっとだけ待ってて貰える?』

「如何かしたのか?」

『越前君があたしに頼み事があるって。』

国光の無表情が硬くなった。
バレンタインデーに恋人のあたしが告白?をされたから、越前君を警戒するのは至って普通だ。
あたしの頭の中の豆電球が光った。

『あ、一緒に行く?』





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