これからもずっと

俺はお前が愛しい。
本気でそう思っている。

差し出した手を取ってくれた愛と短い口付けを交わすと、二人で抱き合った。
年末にもなると、外の空気は冷える。
しかし、俺の心は温かさで満たされていた。

『これからも一杯迷惑かけそう。』

「構わない。」

『また泣かせるかも。』

「泣いてなどいない。」

『そっか。』

流石の洞察力だ。
先程、ほんの僅かに涙が滲んだ気がした。
愛が傍にいてくれるのだと分かった瞬間、長期間に渡って張り詰めていた心が緩んだ。
男泣きなど、愛の前では見せたくない。
愛は微笑み、それ以上詮索しなかった。
話を変えよう。

「お前に渡したい物がある。」

『え?』

愛の身体を離すと、トランクのハンドルに掛けていた紙袋を外した。
ぽかんとしている愛に手渡すと、愛は半開きだった口で言った。

『え、何、嘘。』

「クリスマスプレゼントだ。」

『…開けてもいい…?』

俺が頷くと、愛は中から紙製の包装箱を取り出した。
俺は愛がそれを開封し易いように、紙袋を受け取った。
未だに口を半開きにする愛を見守った。
包装箱に隠れていたのはファスナータイプの長財布だった。
愛は途端に目をキラキラさせた。

『可愛いミントブルー…。

このブランドが好きだってお兄ちゃんから聞いたの?』

「いいや、知らなかった。

お前に似合うと思ったから選んだ。」

女子中高生に人気だというブランドをインターネットで調べ、買いに行った。
派手過ぎずに淡いミントブルーを選んだ。
女性向けブランドの店舗に入るなど、初めての経験だった。
貯金癖のある自分を褒めた。

「お前の持っている財布は萎びているだろう、寿命だ。」

『あはは…よくご存知で…。』

何かの会計の時、ふと愛の財布が目に入った事があった。
その時の愛が財布のチャックの引っ掛かりに困った様子だったのを覚えていた。
愛は恥じらいながら微笑んだ。

『ありがとう…嬉しい。

本当に、凄く嬉しい。』

喜んで貰えたなら良かった。
愛は財布を丁寧に包装箱の中にしまうと、俺が渡した紙袋に慎重に入れた。
紙袋の紐を自分の腕に掛けると、肩に掛けていたショルダーバッグを開けた。
中から白いリボンでラッピングされた分厚いボックスを取り出し、俺に差し出した。

『はい、これ。

メリークリスマス。』

「!」

用意してくれているとは思わなかった。
愛が俺に対してどのような答えを返すのか、疑問だったからだ。
更に言うと、今日答えが出ているのかさえ分からなかったし、今日逢えるのかさえ分からなかった。

「…ありがとう。」

『開けてみて?』

柄にもなく唖然としてしまっていたが、ラッピングのリボンを解いた。
包装紙を破かないように慎重に開けると、高級感のある黒い箱が出てきた。
リボンや包装紙を持ってくれる愛は、微笑みながらも少し不安そうだ。
俺が喜ぶか如何か、心配なんだろう。
艶のある箱を開けると、腕時計が姿を表した。
愛は目を見開く俺に忙しなく言った。

『えっと、その、本当に何をプレゼントしたらいいか思い付かなくて…。

でも今回は乾先輩に聞かずに自分で選びたくて…。

あっ、ちょっと待って、今日此処に来る前にバッグ引っ掴んで来たの!

傷入ってない…?!』

「ああ、大丈夫だ。」

視線を彼方此方に泳がせたり焦ったりする愛を他所に、俺はそれを左手首につけてみた。
黒を基調とした上品なデザインで、ステンレス製だろうか。
文字盤にある銀色の秒針が音もなく時を刻んでいる。
落ち着かない様子の愛の左手首を不意に見ると、似たデザインの腕時計があった。

「ペアウォッチ…?」

愛が慌てて隠そうとする左手を俺の左手が取り、腕時計を比較してみた。
ピンクゴールドが可愛らしく、文字盤のローマ数字も同じだ。
何方も高級感があるが、上品で目立ち過ぎないデザインだった。

『ペアウォッチには二人で同じ時を刻む≠チていう意味があって…。』

「……。」

『ずっと一緒にいようっていう願いを込めて贈るんだって。』

「……。」

『な、何か言って?』

「……上手く言葉にならない。」

愛を思い切り抱き締めたいが、その手にはラッピングのリボンやボックスがある。
愛の肩に右腕を回し、自分の肩にそっと引き寄せた。

「ありがとう。」

『うん。』

愛は両手が塞がったまま俺に寄り添い、静かに抱き寄せられていた。

『距離があっても、ずっと好きだったよ。』

「…!」

『これからもずっと好き。』

やっと言葉で聞けた愛の気持ちに、胸が熱くなった。
顔を上げた愛と微笑み合った。
幸福な現実に満たされながら、二人の時間を過ごした。

もう離れたくない。
お前と二人で、同じ時を刻みたい。
これからもずっと――


W杯編 完

2017.8.8



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