クリスマスイブ-2

再び集中力が切れたのは、ふとした時だった。
うーんと伸びをすると、お兄ちゃんが相変わらずすやすやと寝ていた。
こんなに昼寝をしたら夜に寝れなくなるだろうし、そろそろ起こした方がいいかもしれない。
掛け時計を見ると、夜の6時。
随分と勉強に集中していたみたいだ。
国光から連絡が入ってないかを確認しようと、スマホのボタンを押した。

『あれ…?』

画面がつかない。
W杯前のスマホの悲劇を思い出したあたしは真っ青になった。
寝ているお兄ちゃんに気を遣う余裕はなく、ドタバタと自室に向かった。
壁のコンセントに差している充電器のコードをスマホに繋ぎ、再びボタンを押した。
すると、静かに電源が入った。
良かった…また壊したのかと思った。
充電を忘れるなんて、たるんどる。

『あれ…メッセージ…?』

一件のメッセージを受信した。
受信時間は2時間前。
長らく電池が切れていたらしい。

―――――
川沿いの高架下で17時に待っている。
まだ無理だと思うのなら来なくても構わない。
お前が来なくても、待っている。
―――――

『国光…!』

もう18時だ。
あたしはコートを乱雑に着ると、マフラーとショルダーバッグを一纏めに引っ掴んだ。

『お兄ちゃん出掛けてくる!』

リビングに向かって叫ぶと、玄関から飛び出した。
既に暗くなっている外で玄関の鍵をかける時、何度も鍵を落としそうになった。
闘病中はお休みだった自転車に飛び乗り、立ち漕ぎで爆走した。
川沿いの高架下と指定されたけど、それが何処なのはすぐに分かった。
国光がランニングコースにしている川沿いで、あたしの家から自転車で5分程度の場所だ。
川沿いの舗装された細い道を走り、其処に3分で到着した。
高架下に一人で待っている恋人の姿が見えた。

『国光…!』

トランクを傍に置いている国光は、グレーのコートとマフラーが大人っぽい。
あたしを見上げると、その表情が緩んだ。
あたしは自転車を降りずに、道のない雑草の坂を降りた。
ガタガタと自転車が揺れ、少し怖かった。
国光が目を見開き、高架下まで強引に降りたあたしに焦りを見せた。

「危ないだろう!」

『ごめん、待たせて…!』

自転車を停め、国光の前で荒い呼吸を整えながら話した。

『スマホの、電源が、切れてて…。』

「とりあえず落ち着け。」

こんなに自転車で爆走したのは初めてだ。
手袋をしていないあたしは国光の頬に手を当てた。

『冷たい……帰国してから家に帰ってないの?』

「ああ。」

『ごめんね…。』

「待つと言ったのは俺だ。」

12月下旬の寒空の下、長く待たせてしまった。
とりあえず、暖かい場所で暖かい飲み物でも飲もう。
そう提案しようとしたら、国光が先に口を開いた。

「話がある。」

自分の心臓の鼓動が大きく聞こえた。
どのような結果でも、覚悟はしている。
手が震えそうになるのを堪え、国光の目を見た。

『暖かい場所に行かなくていいの…?』

「今すぐ話したい。」

あたしはゆっくりと頷いた。
国光はありがとうと小声で言うと、少しだけ間を置き、話し始めた。

「お前に離れようと言われて以降、よく考えた。

お前の事を何時間考えたか分からない。」

それはあたしも同じだ。
毎日毎日飽きもせずに国光の事ばかりを考えて、自分の心の狭さを責めた。

「お前が越前やジークフリートに触れられているのを見た時、嫉妬で狂いそうだった。

もうあのような事は御免だ。」

国光は拳を固く握った。
あたしから目を逸らさずに、真っ直ぐに見つめている。

「俺が出す結論は最初から決まっていた。

今後もどれだけお前に振り回されようと、傷付けられようと構わない。

やはり俺にはお前しか考えられない。」

目頭が熱くなった。
涙で視界が悪くなり始めた。

「俺はお前が好きだ。

それはずっと変わらない。」

頬を涙が伝うのが分かったけど、あたしは拭わなかった。
国光の目をずっと見つめていたかったから。

「お前がまだ俺を好きだと言ってくれるのか、正直自信はない。

それでも…言わせてくれ。」

国光は拳を解くと、あたしにそっと手を差し出した。

「もう一度、俺とやり直して欲しい。」

国光がそんな風に思っていてくれたなんて。
嬉しくて、胸が一杯になった。
あたしの導き出した結論も、ずっと前からたった一つしかない。
国光の手に自分の手をそっと乗せ、返事を口にした。

『…はい。』

あたしが微笑むと、国光は安堵した様子で深く息を吐いた。
乗せられた手を握って肩の力を抜くと、あたしの肩に額を置いた。
気のせいだろうか。
一瞬だけ、国光の目にほんの僅かに光る物が見えた気がした。

『国光…?』

「…本当にもう終わってしまうのかと思った。」

『不安にさせて…ごめんなさい。』

「正直、きつかった。」

国光が何時もしてくれるみたいに、国光の頭を撫でた。
髪がサラサラして気持ち良い。
国光はあたしの手を握る力を込め、顔を上げた。

「俺は――」

『うん?』

「――お前が愛しい。」

『…っ。』

間近で囁かれ、顔が一気に沸騰しそうになった。
国光の頬を人差し指をぷすっと押し、照れ隠しをした。

『…中学生なのに。』

「関係ない。」

二人で微笑み合うと、唇が重なった。
関係がやっと元に戻った。
止まっていた歯車が動き出した。
寒空の下、心は温かかった。



2017.8.8




page 2/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -