手塚国光の侵入-2

何だか不思議だ。
海外にいるのに、国光と同じホテルの同じ部屋にいる。
手を伸ばせば触れられる距離にいるけど、あたしたちはこれでも距離を置いている状況だ。
W杯開催前は、国光と一緒にオーストラリアに行きたいと強く思っていた。
だから、たとえどんな形でも、こうやって一緒にいられるのを素直に嬉しく思う。
あたしは立ち上がり、傍にあったベッドに腰を下ろした。

『隣…来て?』

「…!」

国光は目を見開いた。
椅子から立ち上がり、隣に腰を下ろしてくれた。
あたしはその肩にこてんと頭を預け、目を閉じた。
国光はあたしの肩を引き寄せてくれた。

『うん、やっぱり。』

「?」

『越前君にもこうされたけど、やっぱり国光じゃなきゃ…何というか、しっくりこない。』

あたしはクスクス笑ったけど、国光が真剣な表情であたしの顔を覗き込んだ。
間近で視線が交わると、胸が高鳴る。

「もう他の男に肩を引き寄せられたりするな。」

『肝に銘じておきます。』

二人で同時に唇を寄せ合い、短いキスをした。
すると、肩を優しく押された。
視界がぐるっと反転したかと思うと、柔らかいベッドにドサッと押し倒された。
普通の女の子なら、初めての状況にドキドキして真っ赤になると思う。
でも、あたしは違った。
片手で頭を抱え、少しだけ肩が震えた。

『っ、目眩かと思った…。』

「…?!」

国光が息を呑むのが分かった。
あたしは目眩が勘違いだと分かると、胸を撫で下ろした。
気付けば国光が焦っていた。

「すまない、大丈夫か…?!」

『大丈夫、そんなに焦らないで?』

「焦って当然だろう…!」

珍しくとても焦っている。
あたしは顔を顰める国光の頬に手を添え、微笑んでみせた。

『本当に大丈夫だから。

それで…えっと、この体勢は…?』

国光は申し訳なさそうにあたしの頭を撫でた。
あたしは遅れて頬を染めた。
国光の逞しい身体とベッドの間に挟まれ、みるみるうちに緊張してきた。

「すまない、本当に目眩はないか?」

『ないよ、本当に。』

「嘘は言っていないな?」

『もう、嘘じゃないってば。』

国光はまだ何かを言おうとしている。
ムッとしたあたしは上半身を少しだけ起こし、国光の首元に素早く両腕を回した。
言葉を遮る為に、押し付けるようなキスをした。

「っ…。」

国光の身体がビクリと反応した。
キスを続けたまま、国光はあたしの背中に片手を回し、次はゆっくりとベッドに倒してくれた。
唇が離れると、余裕のない表情で言った。

「怖がらなくていい、口付けるだけだ。

それ以上は…何もしない。」

気遣ってくれる国光に微笑み、降ってくるキスに応えた。
これが距離を置いている恋人同士のする事だろうか。

『んっ、国…光。』

「如何した?」

会話しているけど、唇は触れ合っている。
国光はまだあたしの頭を撫でていた。

『帰国したら…逢える?』

「逢ってくれるのか?」

『その頃までには自分の中でけじめをつけるから。』

「けじめ、か。」

国光は目を伏せ、再びキスを始めた。
不安にさせてしまっているのが分かる。
待たせてごめんね、国光。
もう少し、もう少しなの。



2017.8.3




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