親友の本音-2
あたしが華代に丸皿を寄せると、華代は器用にチョコレートブラウニーを一つ手に取った。
それを口に入れる前に、あたしに尋ねた。
「如何して手塚さんと距離を置くの?」
『……。』
「去年のW杯の話もしてないんだよね?」
『…うん。』
あたしは力なく俯いた。
華代は眉を寄せた。
「愛が手塚さんの合宿離脱にショックを受けたのも分かるよ。
でも何も知らない手塚さんだって、愛にいきなり離れようだなんて言われてショックだったと思うよ。
愛の事が凄く好きで大切なのに。」
凄く好きで大切…?
国光があたしを…?
華代の言葉はあたしにとって説得力があって、心に強く訴えかけてくる。
『あたしは心が狭くて…それで…。』
「心が狭い自分は手塚さんに相応しくないと思うの?
だから突き放したの?」
華代の台詞一つ一つが的確で、反論出来ない。
あたしが何も言わずにいると、華代は言葉を続けた。
「あの事を話す前に手塚さんを突き放すなんて、酷い。」
華代がこんな風に考えを真っ向から主張するなんて、凄く久し振りだった。
盲目になって以降は消極的な性格になってしまっていたから。
「手塚さんは冷静な人だよ、愛がメニエール病で入院した時だってそう。
去年の事を話せば、愛が辛い理由を理解してくれる。」
忘れもしない、去年のU-17W杯。
思い出すだけで身震いした。
「今の愛は話もせずにただ逃げてるだけ。
あんなに優しくて愛思いな人を、如何して突き放したりするの?」
華代はテーブルを空いている手でペシペシと叩いた。
その小動物みたいな行動に、あたしは思わず目が丸くなった。
「私は愛の親友だけど、だからって優しく慰めるばっかりじゃないんだからね!
怒る時はちゃんと怒るんだから!」
華代は手に持っていたチョコレートブラウニーを一口で食べ、もぐもぐと威勢よく頬張った。
あたしに本音で語ってくれるのが嬉しくて、目頭が熱くなった。
『華代、ありがとう…。』
「いいんだよ…ごめん、言い過ぎたね。
愛も辛いのに。」
『ううん、嬉しかった。』
この数日間、ただ漠然と日々を過ごしていた。
学校に行って、ゲームと勉強を程々に。
放課後はひたすらテニススクールに入り浸り、考え事をする余裕がない程に身体を酷使している。
今日はコーチに諭され、午後から休みを取った。
話を聞いて欲しくて、親友に逢いに来た。
お兄ちゃんも親友もあたしに真っ直ぐな言葉をくれる。
『去年の事がなかったら、ドイツに行く国光を快く送り出せたのに。』
去年のあの日から、あたしの中で何かが変わってしまったんだ。
「価値観や考え方が全部同じ人間なんて一人もいないよ。」
華代はやっと微笑みを見せてくれた。
それを見たあたしの心は和んだ。
「手塚さんとの事、もう一度よく考えてみて?」
2017.6.2
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