誕生日デート-3
隣同士で観覧車に乗り込み、煌びやかな景色を眺めた。
所要時間は約15分だそうだ。
国光はお土産の紙袋からイルカのキーホルダーを取り出し、その一つをあたしに渡した。
「何処にでもつけるといい。」
『ありがとう!
学校のバッグにつけようかな。』
「なら、俺もそうしよう。」
国光がこのキーホルダーをつけているのを想像すると、可愛らしくて笑みが零れた。
初めてのお揃い、嬉しいな。
キーホルダーをショルダーバッグの内ポケットに大切にしまうと、突然国光にぎゅっと抱き締められた。
『国光…?』
「今日は楽しめたか?」
『うん。』
広い背中に腕を回し、抱き締め返した。
普段なら温もりに浸って目を閉じるけど、今は綺麗な景色を目に映している。
『ずっと楽しみにしてたの。
水族館で国光と手を繋ぎながら歩いて、イルカショーも観たかったんだ。
だから、今日は楽しかったよ。』
学校で倒れてしまったあたしは、未だに普通の事が普通に出来ない場合がある。
国光も左肩を壊し、遠距離になった。
色々な事が重なり、デートらしいデートが出来ていなかった。
だから、今日は本当に嬉しかった。
『あ、そうだ。』
「?」
あたしは国光の胸から顔を上げ、静かに目を瞬かせる国光から身体を離した。
ショルダーバッグを開け、シンプルな包装紙でラッピングされたプレゼントを取り出した。
『はい、誕生日プレゼント。』
「俺に…?」
『お誕生日おめでとう、国光。』
国光が目を見開いた。
それをそっと受け取り、驚いた様子で言った。
「ありがとう、開けてもいいだろうか。」
『是非。』
国光らしく丁寧にラッピングを剥がすと、中から出てきたのは本だった。
世界名山写真集
もう重版されていないレア物だから、老舗の本屋さんを何軒も探し回った。
「これは……誰に聞いた?」
『乾先輩。』
「やはりそうか…。
探すのが大変だっただろう。」
あたしは首を横に振った。
写真集の表紙を見る国光の目が嬉しそうで、買いに行った甲斐があった。
「ありがとう。」
『いいの。』
「今日は俺も楽しかった。
お前が傍にいてくれて良かった。」
あたしも国光が傍にいてくれて良かったよ。
誕生日に一緒にいられて良かったよ。
そんな気持ちを込めて、国光にキスをした。
景色の色々な種類の光が見守ってくれているような気がした。
2017.5.31
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