大声で告白-2

無表情で水野君を見ている国光は、あたしたちとテニスコート半面分程の距離がある。
あたしがその名前を呟いたのは聞こえなかっただろう。
国光は堀尾君と加藤君が桜乃ちゃんを連れているのを見て、あたしと水野君が二人でいるんじゃないかと思ったのかもしれない。
だから、探しに来たんだ。
水野君との話が終わっていないあたしは、国光に言った。

『待たせてごめん、もう少しだけ待っ――』

「手塚部長、聞いて下さい!」

『?!』

あたしは水野君にバッと振り返った。
国光に何を話す気なのか、疑問しか浮かばない。
一貫して無表情の国光は距離を詰め、あたしの隣に立って水野君の目を見た。

「僕は不二さんが好きです。

気持ちだけ……伝えました。」

水野君は先程とは打って変わり、割り切った様子で国光を真っ直ぐに見ている。
しっかりとした口調だった。
水野君は次にあたしの目を見た。

「不二さん、堀尾君がごめん。

これ以上堀尾君が不二さんを傷付ける前に、僕が早く告白した方がいいと思ったんだ。

あのお店で堀尾君は不二さんを泣かせたし、手塚部長を怒らせたから…。」

やっぱり優しい人だ。
越前君が言ったみたいに、悪者扱いなんて出来ない。

「手塚部長。

僕のせいで不二さんに色々と迷惑をかけてしまって、本当にすみませんでした。」

深々と頭を下げた水野君に、あたしは困惑した。
水野君が謝罪する意味が理解出来ない。

『ちょっと待って、如何して謝るの?』

「事の発端は僕だから…。」

『違うよ。

あたしが弱いから、堀尾君の台詞に泣いちゃっただけ。』

メニエール病のせいで、心も身体も弱っていた。
自分が国光に迷惑をかけているお荷物だと思い悩んでいる時に、堀尾君から心ない台詞を受けた。
それで泣いてしまったんだ。

『だから水野君のせいじゃないよ。

これはあたしの――』

「愛、お前のせいでもない。」

あたしは台詞を遮った国光を見上げた。
完治した左肩にテニスバッグを掛けている国光は、冷静な声色で言った。

「これは誰かのせいにするような問題ではないだろう。」

国光の発言は大人だった。
あたしと水野君は納得し、責任を自分になすりつけるのをやめた。

『水野君。』

水野君は俯いていたけど、ゆっくりと顔を上げた。
あたしは眉尻を下げながら微笑んだ。

『気持ちを伝えてくれてありがとう。

あたしの為に早く告白してくれたんだね。』

水野君の恋を応援する堀尾君が、これ以上あたしを傷付けないように。
それなのに、あたしの出す答えは如何しても水野君を傷付けてしまう。

『でも、ごめんなさい。

あたしには好きな人がいるの。』

あたしは国光じゃなきゃ駄目なんだ。
国光があたしを見下ろしたのが分かったけど、あたしは水野君から目を逸らさなかった。
水野君は涙目になりながらも、精一杯の笑顔を見せた。

「うん…分かってるよ。

ちゃんと返事をくれて、ありがとう。」

『友達でいてくれる?』

「勿論だよ。」

あたしは心の鉛が溶けたような気分になり、穏やかな微笑みが溢れた。
何故か水野君が顔を赤くし、小声で言った。

「不二さんって…やっぱり綺麗だね。」

『へ…?』

「手塚部長が羨ましいです。」

そう言い残した水野君は深々と一礼すると、走り去っていった。
その場には無表情で水野君を見送った国光と、開いた口が塞がらずにぽかんとするあたしが残った。
あたしが、綺麗?

『何処を如何見たら綺麗なの…?』

すると、前に立った国光に両手で頬をむにゅっと寄せられた。
タコになっちゃう。
国光はあたしを魚介類にするつもりだ。
拗ねたように軽く睨むと、国光は手を離した。

「お前は綺麗だ。」

『な、何言って…。』

真顔で見つめられながら言われたから、胸の高鳴りが余計に煩くなる。
国光はあたしの頭を撫でながら、水野君が去った方向を見た。

「水野がお前に惹かれる気持ちはよく分かる。

お前には魅力が多いからな。」

『な、何を…。』

メニエールとは違った別の目眩がしそうだ。
またふにゃふにゃになっちゃう。

「帰るか。」

『…うん。』

一件落着と考えていいんじゃないかな。
問題が一つ解決したから、帰り道で国光と手を繋ぎながら心が晴れやかだった。



2017.5.26




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